63 久しぶりの帰宅に不在の母と妹
実家に戻ったら、何故か閑散としていた。
記憶にある音が全く聞こえてこない。
「お帰りなさいませお嬢様!」
そして今までになく、使用人達がずらりと出迎えてくれた。
「あ、はいはいただいま。何か、静かね」
すると執事のジョージがつつ、と進み出てこう言った。
「実は奥様とアンジーお嬢様が、奥様のご実家の方へお出かけになりまして……」
「ああ、留守なのね」
ちょうどいいな、と思いつつ西の対に向かおうとしたら。
「戻ったか」
父が奥からやってきた。
「只今戻りました」
「うむ。では荷物を置き次第、私の書斎に来い」
書斎? 何処にあったっけな? と思いつつも、返事をしてともかく西の対へ。
ただいまフィリア、と抱きついて逆に抱きつかれて。
「ああ何ってこと、フィリアがこんなに痩せてしまって! ポーレが伸びた分横に縮んでしまったのねっ」
「テンダー様…… それは何というか……」
いや別に、フィリアが丸々としていたという訳ではない。
ただやたらとウエストを締め付ける母と比べたら、全体的にふっくらとして、抱きつくと気持ちがいい体型だ、というだけだ。
しかしそれに比べると。
「母はテンダー様の縁談が唐突に起こったことについて心配していたんですよ」
荷物を床とテーブルの上にどん、と置いたポーレがむっとして言う。
「先ほど旦那様が書斎に、と仰ったのもその件でしょうし。そもそもその縁談が起こったきっかけが、アンジー様の手紙なんですよ」
「アンジーの?」
何となく、時期的に嫌な感じがした。
「学校でお姉様に虐められた、しかも皆の前で恥ずかしい目にあった、自分は一体どうしたらいいの、って感じで切々と奥様に訴えていたそうですよ。そんなこと本当にしたんですか?」
「はー」
そんな気はしていたが。
すると。
「自分は何もしていない。なのにせっかくの合同祭なのに、舞台に上げられてさらし者になった、と」
「半分は間違ってはいないけど……」
「間違ってないんですか!?」
「向こうの学校であの子とか、その周辺の悪い仲間がやらかしていることにちょいと皆で釘を刺しただけよ。たぶんその仲間のことも『いいお友達』ってアンジーは書いてきたんだと思うけど。あ、もしかしてあの二人が今居ないのって」
「もしかしなくとも、テンダー様が戻ってくるということで会いたくない、と言って奥様の実家に冬期休暇中行く、とのことです。向こうのお邪魔にならないというのですがねえ」
「……ポーレもまたずいぶん言うようになったわねえ」
「これでももう見習いではないメイドでもありますから」
「嗚呼! そうね会えなかった三年って長いのよね!」
「そうですよ! 私はにょきにょき背が伸びるのに全然他が育ちませんよ!」
えっ、と思って改めて部屋の中でポーレの全体を見ると。
「何だか男物の服が似合いそうな体型になってる……」
これはいい、とふと思ってしまった気持ちが透けて見えたのか。
「……着ませんよ」
ポーレは釘を刺してきた。
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