64 婚約相手の提示と父との会話①
父の書斎に入るのは初めてだった。
そして向かいに座るなり、一人の青年の写真と、経歴書を出してきた。
「これは?」
「お前の婚約者だ」
手に取ってみると、どうやら現在は上級の学校に行っているらしい。
「実際の結婚は向こうが卒業する四年後に予定されている」
「分かりました」
クライド・デルデス伯爵令息――三男。
なるほど女子しかいない我が家にはやはり婿を入れようということなのだ。
「了解致しました。顔合わせなどはあるのでしょうか」
「この休暇中にしようかと思っていたのだが」
父は言葉を切った。
「お母様とアンジーがご実家へ行ってしまったからですね」
「そうだ。お前は本当に、アンジーを合同祭の出し物で全校生徒の前で辱めたのか?」
「アンジーも属している、第四女学校の問題がある生徒二割のの中の一人として、というなら自治会の一員として確かに出し物に参加してもらいましたが。当人達は喜んでおりましたし」
「だがあれは、お前がわざとやったと言っておるぞ」
「おそらく出し物の最後で、前総代のアリータ・サムエ公爵令嬢に質問した件のことでしょう。あれはアンジーが唐突に前総代に質問をしたことが原因かと」
「サムエ公爵令嬢にか?」
「はい。何でしたらそちらへ照合なされば良いかと」
うーむ、と父は眉をしかめ、苦い表情になった。
そう言えば父とこんなに長い会話をしたのは初めてだったな、とその時改めて思った。
「前総代は現在の第一の生徒の中でも最も淑女のマナーについて体現されている方ですから、自治会の方ではぜひに、とお願いしたのです。今回の出し物は第四における問題行動をする生徒に少し行動を改めて、より良い学校生活を送ってもらいたいというものですから」
私はそう伝えながら、自分の口から立て板に水式にさらさらと出てくる言葉になかなか驚いていた。
なるほど、父を父と意識しない報告というのはなかなかにすらすらと出るものだ。
ここに居るのはアンジーの父親で、自分は彼女がおそらくは歪めて伝えたことをただ真摯に伝えればいい。
そう思えば応答は楽だった。
「……ちなみにアンジーは、公爵令嬢に何と聞いたのだ?」
「前提として、私達は第一と第二の男子校にアンケートを取り、『こんな女は嫌われる』という内容の寸劇を致しました」
「何故だ?」
「第四女学校は帝都の女学校の中でも素行の面で非難されることが少なからず。彼女達の中には誤った行動で男子校の生徒と接近し、過去には取り返しのつかないことになって退学になった者もおります。そういうことをしがちなのが、その二割なのです」
「つまりアンジーはその二割に入っているというのか?」
「その通りです」
私は父を真っ直ぐ見た。
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