62 親友は文通友達とのことを気に掛けてくる

「どうって…… 相変わらず文通友達だけど」

「……長いわね」

「まあ、確かに」

「そもそも貴女達、どんなこと送り交わしてるの?」

「え? 普段起こったことだけど。だってヒドゥンさんはともかくあっちへ行きこっちへ行き、だもの。その土地土地の話だけでも面白いし」

「時々こういうのにも載っているけど」


 演劇雑誌を取り出して私の前に放り出す。


「小さい劇団で、個性的なことやってるらしいけれど。評判はいいみたいね」

「帝都に戻ってこないの?」

「手紙には特に書いてこないけど」

「ねえ、テンダーはヒドゥンさんのことはどう思ってるの?」

「だから文通友達」

「それだけでそんな、長く続くの?」

「いや、面白いし、一月に一度だし」

「じゃあ向こうは何で貴女と続けているの?」


 一体何をリューミンはむきになっているのだろう、とこの時の私は思った。

 後になって思えば、リューミンは私が好きな人のことを横に置き、望まない結婚を承諾させられるのではないか、ということを心配していたのだ。

 だがこの時の私には彼女の気持ちは分からなかった。

 と言うか、恋愛感情というもの自体が分からなかったのだ。

 ヒドゥンさんは距離があるからこそ、友達としていい関係を続けてきていた。

 手紙というものの良さは、何と言っても紙の上に書かれたものを何度も読み返せることだ。

 私はその手紙の文面や、字体や、時々差し挟まれる無闇に上手な落書きにどれだけ気持ちが浮き立ったか。

 だがだからと言って、今そこに当の本人が居て、気持ちがそう動くかというと――それは分からない。

 最後に直接会ったのは、彼が卒業して帝都を出る時だ。

 薄いレターペーパーを何枚も使ったそれを、私はちょうどいい大きさ、綺麗な絵のついた菓子缶に保管していた。

 そして時々読み返しては様子を思い浮かべていた。


「そういう貴女の行動は、私なんかから見れば、彼のことを好きだと見えてしまうんだけど、違うの?」

「好きは好きだけど、私にはそれが、貴女達を好きなのとどう違うのかよく分からないのよ」


 ため息を付きながら、リューミンは私の頭を抱え込んだ。


「私ねえ、本当に貴女の両親を恨むわよ」

「どうして?」

「どうしても」


 リューミンはその時はそれしか言わなかった。

 実際彼女はこの時はどう言葉にしていいのか分からない部分もあったらしい。

 ただ誰が悪いのかだけは分かっていたという。



 そして一年の冬以来、本当に久々に私は冬期休暇に実家に戻ることにした。

 一年の冬の再来。

 だが違っていたこともあった。


「え! ポーレ何って背が高くなったの!」


 駅まで迎えに来たポーレとゲオルグだったが、記憶にある身長差と明らかに違っていた。


「テンダー様が戻ってこないから、勝手に育っちゃったんですよ!」


 頭半分ほど背が越されていた。

 私も同学年の中では背がある方なのだが(セレは別格だが)、それをずいぶんと越えていた。


「フィリアはそんなに背が高くないのに」

「うちの父さんに似たんです。はい荷物持ちますよ! 行きましょう!」


 そう、力もずいぶんついたらしい。

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