47 会議を踊らせるために
「髪型について」という議題は既に一週間前から四年の皆に通告されていた。
だが皆の反応は薄かった。
こっそりと上等な絹のリボンの裏に刺繍を入れることだの、髪留めのピンに小さな宝石を仕込むだの、校則に違反するかどうかの辺りのことだろう、と大概の生徒が思っていたのだ。
まさかセレの様な短い髪はどうか、と思ってもみなかったのだろう。
「何だかな、私の時と反応が違うぞ」
食堂でぼそっとセレはつぶやいたものだ。
会議は講堂に椅子を持ち込み、議場の形に並べる。
皆資料と鉛筆だけを持ち、座りたい場所に座る。
議長はセレとヘリテージュ、私とリューミンは移動式の黒板に意見を書いて行く係、そしてエンジュとキリューテリャがその黒板の内容と、口頭の意見をノートにまとめる係となった。
その前に出る面々が一斉に髪を切っているというのは、なかなか壮観なものだったと思う。
言い出したのは無論ヘリテージュだ。
あまりに皆の反応が薄いので、一発喝を入れてみたいということだった。
「いいの?」
自分達はともかく、侯爵令嬢の彼女はそれで大丈夫なのか。
そんな気持ちで皆尋ねると。
「だから効果があるんじゃない」
上位貴族の彼女までがそうする、ということに意味があるのだ、と。
セレがそうした時、単に格好いいとしか騒がれなかったのは、彼女が基本市井の者だからだ。
社交界とは無縁という。
「夏期休暇までに伸びるわよ。伸びなかったら、授業の実験で誤って火がついてしまったとか何とでも言えるわ」
「ああ確かに実験の時には思うな」
セレは大きく頷いた。
特に科学分野の授業や調理実習ではごくたまに本当に綿菓子系の髪の持ち主に火がつくことがあるのだ。
なので実習の時にはしっかり後でまとめる様に、と言われてはいるのだが、それでもたまに出るのだ。
「うちでこうなんだから、第三や第四ではどうなのかしらねえ」
あの綿菓子髪の妹だったらやりかねない、と私は思った。
ざわつく皆に「静かに」とセレが一喝し、会議が始まった。
「本日の議題は――」
言いかけた時、手がすぐに上がった。
どうぞ、とヘリテージュが指すと立ち上がった生徒はここぞとばかりに。
「髪型の件、というのは、長さのことなんですか?」
「長さとは限りません。ともかく、現在特に校則寮則で厳しくは決まっていない髪型について話し合おう、ということです。その上で、四年生としては、どんな髪型が自分達に相応しいか、してみたいか、などの意見をお願いします」
「ではまずその髪型の感想をお聞きしたいです。短くした方々の」
「分かりました。ではまず私から。何と言っても、軽いです。朝の支度がとても楽です。私の髪は、櫛の通りが良い、扱いやすいものと言われていますが、それでもやはり違います」
皆自分の毎日のことを考えている様だ。
特に、くせ毛の生徒の視線はリューミンと私に注がれていた。
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