46 髪を(皆で)切った日
「あ」
「何と」
その朝、寮の食堂は大騒ぎになった。
「皆様、その御髪は一体……」
「ヘリテージュ様のあの艶やかな髪が……」
「リューミンどうしたのその髪!」
「テンダーまで!」
寮監のフリスラ先生が「静かになさい」と一喝するまで、四年生の居る辺りは大騒ぎだった。
いや実際は下級生もこそこそと騒いでいた様だが。
なお既に後の尻尾で見慣れだしていたセレだけは、その尻尾を切ったところで大したことはなかった。
そう、会議の日の前日、皆で覚悟を決めて髪を短くしてみたのだ。
しかし確かにずっと長く伸ばしてきた髪を切る時には、なかなか覚悟が必要だった。
同じ部屋の二人ずつが互いにおそるおそる切り合って、「思い切った感」がある長さにまでした。
さすがに後の床掃除が大変だった。
「綺麗に切れば髢にして売れるけど、まあ貴女達が上手く切れるとは思わないから」
セレはそう言いつつ、ヘリテージュの髪を切っていた。
彼女の髪はまっすぐ艶やかで、櫛を通して引っかかることも無いさらさらのものだった。
しかも髪の一本一本がしっかりしている。
常の手入れも良いのだろう。
まあそのせいで。
「編んでもすぐ崩れてしまうのが面白くなかったのよね」
当人がそう言う程のものだった。
それを今は、肩くらいで揃えている。
既にかなり切っていたセレは尻尾の部分をばっさりやった。
そして切り口に長さを合わせる時、耳の辺りで段を付けた。
彼女も真っ直ぐな髪質だが、ヘリテージュより腰の無い細いものだったので、それまでの尻尾も細かく綺麗に編むことができていた。
リューミンは流れる様な柔らかいくせ毛なので、なかなかどの位置で切るのか迷った。
まあ切ったのは私なのだが。
「羊の毛刈りを思い出せばいいのよ。どのくらい切ればいいか分からない時には少しずつ確実にすればいいの」
そして自分達の周囲にどんどん髪が落ちて行った。
「テンダーの髪は結構太めよね」
「くせ毛なのは妹と一緒なんだけど、あっちは綿菓子。私のは…… 何かな? 海藻?」
「確かに」
海の中でうねうねとするそれ。
キリューテリャのところで見せてもらったことがある。
そのキリューテリャは縮れ毛というのか。
首の半ばまで切った後、一番「軽いです!」と驚き喜んでいた。
ちなみにエンジュは「ごめん自分は三つ編みを愛している」と言って拒否。
彼女は二つに分けた髪を常に三つ編みにしている。
この編む作業自体が好きなのだそうだ。
さすがにその辺りにこだわりのある者まで巻き込むことはできなかった。
しかし本当にこの切った髪の量は多かった。
二人分のそれをかき集めると、結構ずっとりと手に重みがかかった。
「……これだけいつも私達頭から重いものつけていたのね」
切ったばかりの頭は、つい手で触ったり、わさわさと揺らしたくなった。
軽いというのは本当に気持ちよい。
だが無論、その姿を現す時には皆で行かなくてはならない程度には度胸が要った。
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