48 さりげなく会議を踊らせる副議長

「ではその軽い方が、良いということでしょうか?」


 一人が問いかけた。


「私は長いのが好きです。長いのは良くないということでしょうか?」

「そこに疑問を持ったなら、討論致しましょう。髪が短いのもいい、と思う方」


 「のも」とヘリテージュは言った。

 「のが」ではない。

 あくまでやんわりと。


「軽いのは悪くないと思います。しかし淑女の髪型としてはいささか…… セレ様は非常にお似合いだと思います」

「家にその髪で帰ったら、まず心配されます」

「うちは大丈夫です。姉なぞ、伸ばしては美容室に売っていました」

「売って?」


 令嬢達はその言葉を口にした特別奨学生コケット・ランの方を一斉に見た。


「姉は売るつもりで丁寧に手入れしておりましたから、非常に質の良い髢の材料になりまして、我が家の家計が助かっています。私もしようと思ったら、姉に止められました。が、いざとなったら私は売ります」

「私は、少なくとも社交界が短く切った髪を冷ややかな目で見るうちは、どれだけ重くても切れませんね」


 そう言ったのは公爵令嬢のサーティア・デバイシャフ。


「うちの言動で、社交界が動いてしまうことがあるので、正直大きな変化は怖いですわ」


 私は黒板に意見を書き付けて行く。


・セレは確実に似合う、そのままで居てほしい

・庶民の立場からしたら必要があれば問題はない

・問題は無いと思うが長い髪が好きだから切るなんて考えられない

・周囲の目が怖い

・家の立場からすると特別目立つ行動は差し控えたい

・いつも文字の書きすぎで肩や首の凝りが激しいから、人目がなければ一度やってみたい

・もしやってみたいと思っても自分が似合うかどうか分からない


「こんなところかな。って、一番最初の意見まで書くんじゃない、テンダー」

「いや、これは大事なことだと思うわ。そうでしょう?」


 ぱちぱちぱち、と拍手が湧いた。

 一人が自信を持って発言する。


「少なくともセレが似合うのは確かなの。つまり、女のする髪型として、長くなくては似合わないということではないわ。貴女がその証明をしてくれたということよ」


 セレは釈然としない表情をしている。

 それはそうだ。

 そもそも男装の麗人と言われているからこそ、似合うと言われているのだろうから。

 「女性でも」というのは方便だ。

 ――だけど。

 だけど、方便というのはなかなか使い道があるのでは?

 ふと私は思った。


「ではこれらの意見をもう少し詰めていきましょう。実は今日は入浴の日ですので、確かめてみたいこともあるのです」


 ヘリテージュはにこやかにそう言った。


「髪を洗った時の乾くまでの時間がどうなのか。それは健康にも関わるのではないでしょうか?」

「そう言えば、冬になかなか乾かなくて風邪を引くひとも居るものね」

「嗚呼! 健康という観点!」


 一回まとまったと思った意見が再度盛り上がった。

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