33 二年の夏のご招待

 学校に戻ってからは、戻る際にジョージから貰った分厚い資料と、親戚筋一覧を勉強の合間合間に眺めだした。

 関係図を広げる際に大きな机が必要だった。

 ちょうどいいものは図書館にあった。

 するとリューミンと共に本を探しに来ていたヘリテージュがのぞき込んできた。


「何? これ貴女のとこの親戚筋? どうしたのいきなり。……へえ、こう繋がっているんだ。あ、この家はうちと少し遠いけどつながりがあるわね」

「知ってるの?」

「まあ、私のうちの場合そういうことは割と小さい頃に叩き込まれるから」

「さすが帝都近郊高位貴族!」

「うちじゃそういうことは割と役が決まってからよね」


 本を選んだのだろう、近付いてきたリューミンもこそっとそうつぶやく。


「何か急いで覚えないといけないことがあるの?」

「急ぎという訳じゃないけど、保険かなあ。あちこちに一応お伺いというか、ご挨拶くらいはしておこうと思って」

「お家のために?」

「うーん」


 それを言われると微妙なのだが。


「……もめ事があると私に理不尽に降りかかってくるかもしれないじゃない。だからその前に、予習とかいうか」


 なるほど、と二人とも頷いた。



 それからというもの、学業の合間にヘリテージュは私に帝都近郊貴族の関係を教えてくれた。

 そうなると日々の過ぎるのは早い。

 一年の終わり、皆揃って進級。

 新入生が入ってきて、また勉強勉強試験勉強。

 夏期休暇はこの流れでやっぱりセレと一緒にヘリテージュの侯爵家へ。


「もう! 貴女方が来ないなんて、ってうちの皆がつまんないって脅すのよ」


 リューミンはそう言ったが、私としては鉄は熱いうちに打っておきたかった。

 侯爵家では令嬢のお帰り、お友達も一緒、ということでお茶会にも参加させられた。

 滅多に飾ったことが無い、という私とセレはヘリテージュとその母君と姉君の着せ替え人形になっていた。

 体型が近い、ということで私は姉君の少し前のドレスを借り、セレはサイズが無い、ということで半分自棄で兄君の服を身にまとっていた。

 何でも学生時代のものらしい。

 男性の服の流行廃りはスパンが長いらしいので、兄君のそれは、弟君の時のために大事に保管していたのだそうだ。

 こういった服にせよ、ドレスにせよ、必ずしも常に換えてばかりいる訳ではないこの家に私は好感が持てた。

 伯爵家の人間の分際で、だが。

 セレの姿は好評だった。

 長い髪は後ろできりっと結んで。

 合同祭に来ていたというどこぞの御夫人が「まあぁ~!」と黄色い声を上げていた。

 セレは複雑そうだったが、まあ仕方がない。

 せめても、とばかりにタイだけは細身の色鮮やかなものをヘリテージュは選んでいた。

 背が低い、身体が小さいならドレスの貸し借りは可能だが、長身はどうにもならない。

 それに何と言ってもセレの体型は胸と腰の肉がともかく欠けている。

 育った環境なのか、立ち仕事が長かったせいなのか分からないが、ともかく胸はは私より小さかったし、腰はヘリテージュよりずっと小さかった。

 有り体に言えば、細身の寸胴だ。

 まあだからこそ、紳士物が妙に似合うのだが……

 そんな付け焼き刃衣装であちこちの茶会に参加した私達だが。  


「こちらが貴女のところとも繋がっている子爵家の方、あちらは……」


 そうやって、伯爵令嬢の私も、特別奨学生のセレも、真っ当な侯爵家のお客人ということできちんとした歓迎を受けたものだった。

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