26 居ない間の妹の所業②

「『はじめてのお茶会』的な本を買い求めては、こんな食器が欲しい! クロスは! 花は! って、その例に載っているものそのものを再現しようとして、何かと奥様にお願いされた様で。で、奥様も初めてだ、ということでこれは! と旦那様にお願いを。……で、どっと荷物が届いたのですが、そこでトラブルが」

「トラブル?」

「そういう本が出ていて、アンジー様がそうおっしゃるということは、まあ、同じこと考えるお嬢様が世には多いということですよね。ですので、食器メーカーやクロスを扱う業者も一時的な品切れを起こしていたそうです。で、花なんですが」

「花も?」

「庭園に無い訳ではないんですが、残念ながら、季節的に咲かないんですよ」

「ちょ、それ」

「……だからそういう時には季節の花を、ということがその本には書いてあったのだけど、とアンジー様付きのメイドがこぼしていたんですがねえ」

「ん? お付きのメイドがこぼす、ってことは」

「はい。メイドが口が軽いんじゃなくて、アンジー様が使用人に信用されていないんですよ」


 きっぱりと私の乳姉妹は言った。


「私にとってのテンダー様は主人であると同時に、やっぱり乳姉妹だ幼馴染みだ、ということもあって、身分があっても絶対に裏切らない! ともう天に誓っているんですが、どうも向こうの話を耳にする限り、そういう使用人は居ない様ですね」

「アンジーには乳きょうだいは居ないの?」

「そもそもアンジー様は奥様のお乳を直接いただいていたそうです」

「えっ」


 私は驚いた。


「周囲がそういうことは乳母に任せて、伯爵夫人の職務を…… と言われても、そこは譲らなかったそうで。だから向こうにも乳母という存在は居ますが、それは夜中に眠っている奥様のお乳にアンジー様を近寄らせ吸わせる係だったそうで。で、そこまでして育てたんだ! 私偉い! という何かの思いが奥様にはおありだそうで」

「何かそこまで来ると執念を感じるわね」


 思わず呆れてしまった。


「庶民ならまあ普通なんですがね。貴族の奥様にはそれ相応の仕事があるので、乳母にその辺りは任せるのが普通だと私も聞きました」

「ああ、友達の――辺境領のお母様達はそういう感じだったけどね。でも向こうの仕事は社交じゃなかったし。侯爵家の友達は、当たり前の様に乳母と乳兄弟が居るって言ってたわね。いつかは彼女の護衛になるんですって」

「そうそう、だからそういう気の置けない相手というのはやっぱり貴族様のお嬢様には必要だと思うのですが、どうもアンジー様はその辺りを飛ばされてる様で。かと言って無論奥様がおむつを替えたりする訳ではないのですが」

「綺麗とか可愛いもの好きだったら無理でしょうねえ……」

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