18 ロマンス小説について語った結果

「あ、ありがとう……」


 一週間後、私は冊子をエンジュに返した。


「どうだった?」

「まとまったおはなしだとは思ったけど、よく判らなかったな」

「よく判らなかったって?」

「いや、あの、まず何でこんなに出会ったた男女が熱心なのかが」

「まあ!」


 エンジュはかっと目を開いて私にロマンスの良さを力説しだした。

 曰く、身分やら環境やらの違いを乗り越えて二人が思いを遂げるその課程の素晴らしさ。

 曰く、そんな環境の違う二人が電撃的に出会う瞬間のときめき。

 曰く、もしそれが敵わないなら死も厭わないほどの情熱。


「そういうのに満ち満ちているからいいんじゃないの!」


 常の大人しさをかなぐり捨てて熱弁する彼女に皆やや引いたが、それでも言わんとすることにはある程度頷いていた。


「いや、だってこんな恋愛があちこちにあったら色々問題が」

「だーかーらー! つくりものなんですって! 現実は世知辛いから、皆夢を見るのよ! 冊子の中くらいそういう世界があったっていいじゃない」


 そうよねえ、と皆頷く。

 驚いたことにセレまでが同意していた。


「惚れたはれたにしても世知辛いよ。違う身分の二人がくっついたとして、現実、貧乏な方に寄せたら、金持ちだった方は不満がたまるし、逆だったら貴族や金持ちの家の世界に馴染めずに気持ちを壊してしまうこともあるだろうしな。まあ芸術関係でくっついた連中はそうでもないだろうが……」


 あ、とそれを聞いた時にリューミンがぽん、と手を叩いた。


「そう言えばセレ、第五に居るって言う貴女の友達って」

「うーん…… 歌劇好きで入った子だからなあ。今回の変更でどうなったことやら」


 やや不安げな表情を見せる。


「まあそのうち召集がかかって、第五との会議に引っ張り出されるだろうから、その時にあれとはどういう状況だったのか話してみるよ」


 そうセレは言ったのだが。



「あらまあ~! 何と! あの堅物にこんなにご友人が! ええとそちらの大輪の白薔薇の様な方が、侯爵令嬢のヘリテージュ様、ハマナスの様な方が辺境伯令嬢のリューミン様、木香薔薇の様な方が今度脚本にも関わるというエンジュ様、張り巡らされた野薔薇の様な伯爵令嬢のテンダー様、それに麗しくもその棘が素晴らしい紅薔薇の様な緑旗少将令嬢キリューテリャ様ですね!」

「……あーこれが悪友の、テレバ・ルス。第五の二年で、歌劇好きで入ったにも関わらず、気がついたらどうも、……私も知らなかったが、舞台美術に鞍替えしたらしい……」


 紹介するセレ自身、頭を抱えていた。

 どうもその事態に当人は気付いていなかったらしい。


「色々あるんですのよ。ほら、向こうに衣装芸術の先生もいらっしゃる」


 案内してくれるテレバ・ルス嬢の示す先を見た私は驚いた。

 そこに居たのは叔母だった。

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