19 叔母との再会に唖然とする友人達

「どうしました?」

「衣装芸術の先生って、あの、お名前は」

「カメリア・ウッドマンズ…… あらあらあらあら、もしかして。先生ー!」


 テレバは音も立てず跳ねる様にして「先生」の元へ駆けて行く。

 絶対第一では見られない光景だ。

 そして何やら話しかけ、こちらを示す。

 すると「先生」がこちらに近付いてきた。


「え? もしかして、あの小さかったテンダー?」

「は、はい。叔母様、お久しぶりです……」


 するとカメリア叔母様は私をぎゅっと抱きしめ、がしがしと頭を撫でた。


「やだもう! 久しぶりなんてものじゃないわよ! まあ会えて嬉しいわ! 私が伯爵家から逃げ出して以来だから、もう十年経つのねえ。どう? やっぱりあのひと達とは顔も合わせていない?」

「叔母様…… 一応朝食と正餐だけは合わせてました」

「出発の時は?」

「確かあの時は皆春先の旅行に出ていたような」

「ああ全く相変わらずね! でも学校は楽しそうで良かった良かった」

「あ、夏期休暇は友達のところへ」

「まあ貴女に友達が! もしかしてこの皆さん皆そう? まあ! 私嬉しいわ! まあまあ皆さんこの子を本当によろしくね」


 唖然とする皆に向かい、叔母は勢いよく頭を何度も上下に振った。


「カメリア先生の姪御さんでしたのね。確かに少し面影がありますわ。野薔薇と思ったのは私間違い無いですもの!」


 ははは、と私は多少引きつった笑いを浮かべた。

 白薔薇と紅薔薇はいいが、木香薔薇と浜茄子をたとえに出してくる辺り、本当にこのテレバ嬢は薔薇が好きなのだろう。

 棘のない木香薔薇、荒れ地、浜辺にも咲き、香気高い大きな花を咲かす浜茄子。

 その中で野薔薇を出してくるとは。


「ちなみに先生を見た瞬間に、白椿を連想しましたのよ!」


 そして積もる話もあるのでは、と皆テレバ嬢に率いられ、劇の準備委員会の方へと連れていかれた。

 私はカメリア叔母様と二人になった。


「この場はまあ皆に任せておいてもいいわ。ちょっとお話しましょう?」

「あ、はい」


 私は叔母に連れられ、第五の食堂へと向かった。

 そこはどうも第一のそれとはやはり違っていた。

 確かに食堂なのだが、壁が!

 元々の建物は同じはずなのに、壁には、レリーフなのか何なのか、立体的な装飾がこれでもかとばかりにされている。


「ああ、これはね、彫刻専攻の生徒がどんどん漆喰細工を足して行くの。あっちはモザイクやフレスコを専門に学んでいる子達が」

「生徒達の作品ってことですか!」

「碌な出来でないと、上からどんどん足されてしまうのよね。だから碌な出来にするべく、挑戦する子達は必死なのよ。漆喰って素手だと大変なのよ? 取り組んだはいいけど、熱中しすぎて手の皮がべろべろになってしまう子も居てねえ」


 楽しそうに叔母は話す。

 そして待機している厨房に一声かけると、黒茶にミルクを入れたものを出してもらった。


「はいどうぞ」


 テーブルもまちまちの場所に置かれている。

 大きさもまた然り。


「ああやっとゆっくり話せるわ」


 叔母はほっとした顔になった。 

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