17 結婚相手というものについて話した結果

 セレはそれからというもの、「勉強が~」とうめきながらも、ともかく総代の命、しぶしぶながらも必要とあらば出向いていた。

 そしてもう一つの需要。

 脚本を書ける才能、だが。

 これはもう、学年を問わずだった。

 書きたい者、書ける者、ともかく自治会の方に自作を提出する様に、とのお達し。

 さあそこでエンジュが手を挙げた。おずおずと。

 彼女はメンガス財団の令嬢だが「できれば文学の方に……」とこれまた控えめに常日頃から主張していた。


「結婚相手にしても、私の趣味を放任してくれるなら、生理的に気持ち悪くない限り別に誰でもいいわ」


 いや、その生理的というのがなかなか難しいんだが、と周囲は突っ込んだものだ。


「生理的に嫌な相手でも家格で結婚しなくてはならないこともあるからね……」


 寮仲間の中で最も家格の高いヘリテージュはため息交じりに言った。


「だがしかし自由であるからと言って、必ずしも自分にとって良い者と結婚できるとは限らないぞ」


 と、家格では最も低いセレも言う。


「結局は妥協ですねえ」


 そうキリューテリャは頷く。


「私の父は緑旗の少将ですから、やっぱり何だかんだ言って縁談は軍関係者が多くなりがちですからねえ」


 帝国は全軍を八旗と呼ばれる軍官地に分けている。

 彼女の住む南東辺境伯領内の色は「緑」なのだ。

 そしてモリゲ男爵家は軍人家系でその爵位を得た、と彼女は説明していた。


「でも軍人ならまだ広いんじゃない? 年頃とか」

「そうですねえ、うちは姉が居ませんから今どうなのかは判りづらいのですが、少なくとも母は祖父同士が仲が良かったということで嫁いできたそうですよ。割とこれは成功した例かと」


 ふふふ、と彼女は笑った。


「テンダーも家格は高い方だけど」

「うーん」


 私は答えに迷った。


「結婚の想像ができなくて」

「あら、そういうもの?」


 エンジュは眼鏡の下の目を大きく広げた。

 遅くまで小説を読むのが好きな彼女は割と早めに近眼になったらしい。


「では私がおすすめの小説を」


 そう言ってそそくさと自室へと戻り。

 こちらへ再びやってきた時には手に十冊くらいの薄い小説冊子があった。


「それ、もしかして本屋に積まれている……」


 リューミンは覚えがある様だった。


「ふふ。そうなの。あまり推奨はされていないけど」

「?」

「今流行のロマンス小説よ。それこそ貴族の令嬢奥方から市井の年頃の娘までが夢中になっている!」


 そこばかりは常に控えめなはずの彼女も、実に押しが強かった。

 私は一つの話が一晩で読めてしまうくらいの、この類いの冊子は手にしたことが無かった。

 ……そしてやはり手にするものではなかった、と再度自覚した。

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