6 先生は私の意識のずれについて具体的に説明する
「そうなの?」
「はい。潤沢な賃金を払う余裕のある家でも、きょうだいは揃って同じ教師に学ばせるのが普通です。貴女はポーレさんと一緒に学びましたが、通常は、あの位置に居るのはきょうだいです」
「じゃあどうして、向こうの子はそうではないのですか?」
「……テンダー様には確かに貴族の令嬢として必要なものを充分与えてはいらっしゃる…… ですが、それだけなのです。向こうのお嬢様には、それ以上のものを常に旦那様と奥様は与えていらっしゃる、ということです」
「でもそれは面倒なことではないの?」
「そこです」
先生は手を軽く挙げた。
「両親の存在が面倒くさい、と貴女は私が最初に出会った三年前から思ってらした。七歳の裕福な子供としては、悲しいことです」
「悲しいんですか?」
「ええ。普通、もしくはこうあって欲しいという家庭では、両親が自分から娘の住処に足を全く運ばないなんて、ありえません。きょうだいはできるだけ公平に扱うし、……そうですね、出かける時に連れ出して、という話をなさってた様ですね、それは確かに貴女には面倒なことなのかもしれませんが、向こうの方を見せびらかしたい程可愛がっている、という見方もできるのですよ」
「……」
私は黙った。
やはり上手く理解できなかった。
「私の家は、貴族とは名ばかりの家でしたから貧乏でしたが、この部屋くらいの家で家族五人が仲良く暮らしてましたよ」
「え、この部屋に五人!」
「そのうちお入りになる学校の寮も大概は相部屋ですから、その辺りの常識も少し覚えておいた方がいいかもしれませんね。庶民ですと、この半分でやはりその人数暮らしていることもありますよ」
「でもそれじゃあ窮屈ではないですか?」
「窮屈でも何でも、それしか場所がなければ、そこでできるだけ仲良くやっていこうとするものです。実際私は両親の愛情だけは一杯に浴びてきたと思います」
「あいじょう」
「ええ。……そうですね、近いものでは、フィリアさんとポーレさんですが、彼女達から、貴女の方が身分が上、という立場を引き算した感じでしょうか」
「フィリアはずっと居て欲しいです。ポーレも」
「ええ。それが当たり前であるのが生まれつきの家族です。ですが、おそらく貴女は向こうの方々のことに無関心ですよね」
「はい」
「それはそれで、もう仕方ないことです。そうならざるを得ない環境で貴女は育ってきてますから。ですが、周囲はそうではないです。だから私達にはそういう顔をお見せになってもいいですが、外では無闇にそういう質問をしない方がいいでしょう」
「外では」
「大概の余裕のある家族は、両親に無条件に愛し愛されている、もしくはそういうことになっているんですよ」
「そういうものなのですか」
「一番いいのは、学校に行く様になった時に、きょうだいを沢山持った人のいい友達を作り、その家に招待されることですね。身分は問いません」
成る程、と私は思ったものだった。
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