第5話 自由人、出会う
「……なんだよ、あの化け物は」
ユキネを遠くから観察していた男達は口々にそう呟く。
男達は、皇帝の命令で遣わされた帝国お抱えの密偵である。
そして今回、皇帝自身が警戒している召喚者を監視するのが仕事だ。
しかし、対象はただの少女。あんな少女が陛下をどうこうできるはずがないと思っていた。あの戦闘──いや、蹂躙を観るまでは。
「流石は陛下が警戒するだけはあるか」
オークは駆け出しの冒険者にとって最初の関門ともいわれる魔物だ。しかもそれを一人で三体も同時に相手取るなど、自殺行為にも等しい。それを彼女は一方的に蹂躙した。
もしもあれが自分たちだったとして、同じことが当時の自分にできたか。答えは難しいの一点である。
出来なくはない。しかし、あそこまで手軽に。そして狂気的に殺すことは難しい。
ゆえに男達は、ユキネへの警戒心を最大限引き上げた。もし仮に、彼女が国に弓を引くような素振りを見せたら、ことが起こる前に摘み取るようにと。
男達はユキネの後をつけていった。
*
ゴブリンの集団が一切見当たらない。
え、ゴブリンってこんなに見つからないものなの? それともボクの運がないだけ?
たしか、ボクの運はそれなりに高かった気がするんだけど。90だよ? ダイズロールしても失敗する確率は一割だよ? なんでこんなに見つからないのかなぁ。
そうして、森を歩いていると前方に絶壁が見えた。ふぇぇ、高いなぁ。
絶壁に圧倒されながらも、周囲を見渡してみると、崖下に洞窟があるのを発見する。
そして、見張りをするかのように二体のゴブリンがいた。
「ゴブリンはっけーん‼ でもなんか寝てるな」
完全にぐっすりな見張りゴブリン。
いややる気ねぇなら中に引っ込めよ。まぁいいや。
「とりあえず、近づいて殺そう」
極力音を立てず、起こさないようにゴブリンに近づく。
そして、足元にゴブリンの頭が来たところで、
グシャッ‼
その頭蓋骨を踏み砕く。
肉片が飛び散り、ゴブリンは絶命する。
「あっ、倒した証拠に耳を採取しなきゃいけなかったんだ。でもこれじゃあ取れないよねぇ」
自分の迂闊さが恨めしい。
まぁいい。見る限り、ゴブリンが生息する洞窟だろうからそいつらから採取すればいいや。
ボクが考え込んでいると、もう一匹が起き上がる気配がした。
やべ、音を立てすぎたかな。真正面から蹂躙するのもいいけど、暗殺するのも楽しいんだけどなぁ。
ボクを見つけたゴブリンは仲間を呼ぶために叫ぼうとするが、それよりも早くボクは接近し、錫杖で首を跳ね飛ばす。
よし、今度は綺麗に殺れた。
頭がなくなり崩れ落ちる死体を一瞥したあと、耳を採取する。
ほー、変な形してるなぁ。なんかエルフの耳を緑色にして分厚くした感じだね。
とりあえずやることもやったし、それじゃあ早速洞窟に進もう‼
そうしてボクは洞窟へ足を踏み入れるのだった
*
踏み入れた洞窟はかなり真っ暗だ。
「──光よ、周囲を照らせ──《ライト》」
光属性の魔法を使い周囲を照らす。あぁ、無駄な魔力使った。松明とか買えばよかった。
明るくなった周囲を見てみるが、ゴブリンのゴの字も見えないぐらい居ない。
もう、ステータスなんて信じねぇ。というか、よくよく考えて、運なんてもの数値で表せられる訳ないじゃん。
ゴブリンが見つからない現実に愚痴を吐き捨てながら洞窟を進む。
──そして次の瞬間、錫杖を後方に向かって思い切り振るった。
ガキンッ!! と金属同士がぶつかり合う音が鳴り、洞窟内を木霊する。
「やっと、現れたか」
後方に目をやると、たった今叩き折った冒険者から奪ったであろう剣を持つゴブリンを筆頭に五匹ほどのゴブリンがいた。
いやぁ現れるまで長かったなぁ。それにしても、途中で横穴が在ったから、わざと素通りして釣ろうかと思ったけど、まさか本当に釣れるとは。
ゴブリンたちは、ゲヘゲヘと下卑た笑みを浮かべながらこちらににじり寄ってくる。大方、バカな小娘がわざわざ捕まりに来たとでも思ってるのかな。だとしたら、とんだ勘違いだ。
それにしても、奴らの顔を見ているとなんだか無性にイライラしてくる。……あれだ、女の子を平気で襲うような男達と同じ顔をしているからだ。あぁムカつく。
そういえば、ゴブリンは人間の女を攫っては腹見袋にしているって本に書いてあったな。
「生憎と、女の子に乱暴をする奴らはボクにとって唾棄する生き物なんだよ。だから──」
──皆殺しだ。と、ボクは笑いながら告げる。
ボクの笑みが気に入らなかったのだろうか。
連携なんて減ったくれもない単調な攻撃の数々。そんなものが本当に効くと思ってるの?
身体強化魔法を詠唱し、強化すると同時に最も近くにいたゴブリンをぶん殴る。
血潮に変わるゴブリンを放置し、すぐさま駆け出し後続のゴブリンたちに接近する。
仲間が死んだことを意にも介さず、むしろさらに興奮した様子をしている。流石、下半身の化身だ。
「──煌めきよ、激しく発光せよ──《シャイニング》」
目を瞑りながら光属性の中級魔法を唱える。
その瞬間、光が洞窟内を激しく輝き観るものすべての眼を眩ます。
例にもれず、一切対応をしなかったゴブリンどもは魔法にやられ、目を押さえている。
その隙を逃すはずもなく一気に加速し、首をはね、身体を潰し、心臓を貫いた。
……戦いが終わり、立っているのはボク一人だけ。
「……つまらない」
確かに生き物を壊すのは楽しい。快感がある。でも、一切歯ごたえがないと楽しめるものも楽しめない。
「もっと楽しめると思ったけど、仕方ない。もう帰ろうかな」
ぶっちゃけ、今の戦闘で依頼は完了した。だから、洞窟を制覇する必要はないでしょ。
そして、ボクは洞窟を出るために歩き出すのだった。
*
洞窟から帰った後、ギルドに依頼完了の報告をした。
で、やることもなくなったからとりあえず宿に戻ってます。
そんなことよりも、今回の冒険はかなり消化不良だ。何せ、ゴブリンもオークも正直強くなかった。
確かに、オークとの戦闘は、久しぶりのことでもあったからかなり興奮した。でも、歯ごたえがなさ過ぎた。
まぁ、正直言ってボクのスキルは強すぎる。それこそこの世界において最強と言っても過言ではない程に。
だからまぁ、今回の討伐依頼の結果は必然であり、ボクにとっては不満の残るものだった。
「……およ? ここ、どこだろう?」
考え事をして歩いていたせいか、よくわからないところに出た。
周囲の町並みは薄汚れ、腐ったような臭いが漂っている。ここはスラムかな?
まぁこの世界の生活レベルが中世って時点でスラムはありそうだなぁとは思っていたよ。
でも実際に見てみると、日本とは違うってものすごく理解させられるから新鮮だなぁ。
「──ぁぁぁぁ……」
そうしてスラムを歩いていると、路地の方から悲鳴が聞こえる。何の悲鳴だろう?
気になってその路地を覗いてみると、そこには二人の男が血溜まりに沈み、その奥には一人の少女が立っていた。
白く、長い髪を棚引かせ、彼女は悠然とそこに立っていた。
立ち振る舞いからわかる。かなりの戦闘能力を有する手練れ。
「……誰?」
ボクの気配に気が付いたのか、少女はこちらに振り向いた。
「──ッ⁉」
ボクの瞳と彼女の紅い瞳、二つが交差したと同時にボクの中で特大の愉悦が沸き上がった。
多分ここで選択を間違えたら、もう二度と抱くことができないような、それほどまでの愉悦。
──あぁ、これだ。
多分ボクの顔には人に見せられないような、そんな笑みが浮かんでいると思う。
気が付けばボクは路地に歩き出していた。
「初めまして、お嬢さん。少し、いいかな?」
そうしてボクはその少女に声をかけた。自らの欲望を満たすために。
あとがき
どうもゼロです。
長らくお待たせして、申し訳ありません。
遂にヒロインが登場します。地味に長かった。
ユキネがどんな旅をするのか楽しみにしていてください。
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