第2話 自由人、帰還しそして怒られる

「うぇぇぇ……お腹すいたよぉ……」


 異世界から帰還したボクは、魔力を大量に消費したためか、ものすごいお腹が減っていた。

 うぅ、まさか魔力を消費するとお腹がすくなんて考えもしなかった。宴で折角大量食いしたのに、台無しだよ。仕方ない、何か食べるか。


 という訳で、お腹がすいたボクはキッチンに行ってラーメンを作ることにした。

 夜食と言ったらラーメン‼ デブへの道まっしぐらな夜食だけど。大丈夫、ボクは太らない体質だから‼


「フハハハハハ‼‼ 夜食に食うラーメンと言ったら豚骨でしょ‼‼」


 鍋に水を入れ、器にたれを入れる。水が沸騰したら麺を投入‼

 さて、麺を茹でる時間は基本的に三分から五分。だがしかし、私は硬めが好きだからそれより前に切り上げるのだ‼

 一秒の誤差で、麺は伸びていく。だからこそ、タイミングが重要‼


「──あら、幸音じゃない? いつの間に帰っていたのかしら? とりあえず、ただいまぐらいは言ったらどうかしら?」


「黙れぃ‼‼‼‼ ボクは今、最重要任務を遂行中なんだ‼‼ 外野は黙って──」


 瞬間、右頬に強烈な衝撃が弾け、ボクはトリプルアクセル並みの回転をしながら吹き飛び、床に叩きつけられる。

 ば、馬鹿な⁉ このボクがこうも簡単に吹き飛ばされただと⁉


「フフフ、親に向かってそんな口の利き方するなんて。……教育が必要のようね」


 這い蹲っているボクの頭上から、周囲を凍てつかせるような冷たい声が聞こえる。

 ま、不味い‼ 調子に乗り過ぎて、女帝に喧嘩を売ってしまった……。何か言い訳をしなくては‼


「い、いやだなぁ。さっきのはジョークだよジョーク。ただのアメリカンジョークだよ」


「あら、暴言を吐くのがジョークだなんて、お母さん始めて知ったわぁ」


 言い訳失敗。このままでは、ラーメンも食わずに殺され……って、ラーメン⁉ 

 ま、不味い……このままではぶよぶよの伸びきった麵になってしまう‼


「ボ、ボクはラーメンを食べるって使命があるんだ……‼ 邪魔するなら、いくら母さんでも許しはしな──」


「そろそろ、面倒臭くなってきたから、少し眠ってなさい」


 何とか立ち上がったボクをあざ笑うかのように、母さんの右手から放たれた平手打ちが容赦なく頬にめり込み、先程よりも大きい衝撃が伝わり、吹き飛ばされる。

 えっ、何その威力? 到底人間のそれだと思えないんだけど。というか、ラーメン食べそびれたな……。


「──安心しなさい。ラーメンはお母さんが美味しくいただいておくから」


 この野郎、後で絶対痛い目に遭わす‼

 そんなことを思いながらボクの意識は落ちていくのだった。



「──はぅ?」


 ボクは長い眠りから覚めたようだ。といっても体感的に十分程度だと思う。でも、なんか記憶が一部飛んでる気がする。何やってたんだっけ?


「あら? もう起きたの?」


 声が聞こえ、そちらに顔を向けると、ニコニコと笑顔を浮かべた悪魔がいた。

 えっ? 何この状況? 母さんのことが死ぬほど怖いんだけど。

 ていうか、ボク縛られてない? しかも亀甲縛りで縛られてない? ボクにそんな趣味は無いんだけど。


「あ、ラーメンのことなら大丈夫。私がしっかりと食べておいたから」


「この野郎ぶっ飛ばしてやる‼‼」


 テメェ、この野郎‼‼ 人様のラーメンを勝手に食うとは、万死に値する‼

 ボクは必死に縄から抜け出そうともがくが、あれ? 一切解けないんだけど。


「因みにその縄は、冬夜とうや君達のお手製だからあなたでも抜け出せないわ」


「なんてものを渡してるんだ、冬君ぇ……」


 あっ、因みに、冬君こと絢坂あやさか 冬夜とうやはボクの彼氏です。

 冬君とその親友の人たちはちょっと……かなり……いや滅茶苦茶ヤバい人たちで、冬君は常識人ぶってるけど、親友の人たちと関わってる時点でおかしいことには変わりないから。


「とりあえず、私に暴言を吐いたことは置いておくわ」


「許してくれるの?」


「そんなこと一言も言ってないわ」


 許されてなかった、しょぼーん。

 たっくよぉ、多少暴言を吐いたからってここまでしなくてもいいじゃないか。せいぜいぶっ飛ばてやるって言っただけじゃないか。


「反省して無いようだから、追加で教育しちゃおうかしら」


「大変申し訳ありませんでした」


 すぐさま額を地面にこすりつけて降伏する。勿論亀甲縛りのまま。


 そのあと、許してもらえたのかもらえてないのか、とりあえず縄の方は外してもらいました。あー身体が解れて気持ちぃ。


「はぁ……反省の色が一切見えないけど、まぁいいわ。とりあえず幸音、あなた何処行ってたの?」


「んー、異世界行ってました‼‼」


 腰に手を当てて、もう一方の手で目元で横ピース。ウィンクもしっかり忘れない‼


 ガシッ‼ ミシミシ‼


「痛い痛い痛い⁉ か、顔が⁉ 顔が潰れちゃう‼‼」


「貴女がふざけたことをするからでしょう?」


 母さんによるアイアンクローが着実に顔を潰しにかかっている。全力で抵抗してるのに、この腕びくともしないんだけど?


 そうして、長時間の激闘の末、何とか解放された。一体ボクが何をしたっていうんだ‼


「とりあえず、貴女が異世界に行ってたのは分かったけど、どうして貴女だけ帰ってきたの?」


「それよりもボクが異世界に行ってたってことを聞いてどうして驚かないの?」


「それ今更聞くことかしら?」


「聞くでしょ」


 やはりボクの母はもう駄目かもしれない。

 えっ? 娘が異世界行ってたとか言ったら即精神病院行きでしょ普通。


「小学生の頃から冬夜君達と遊んでたのを知っているから。だからもう慣れたわ」


「さようですか」


 異世界に行くのが遊び……末期かな?

 いやまぁ、母さんの言う通り、昔から異世界とか異界とかよく行ってたからね。もう慣れたもんだよ。


「まぁいいや。ボクだけが帰ってきた理由だけど、単純に魔力が足りなかった。流石に一クラス全員を連れて帰るとなると、冬君たちがいないときつい」


「無理って言わない時点で、貴女も大概よね」


 まぁ、時間さえかければ全員を連れて帰ることはできるよ。でも、そんな面倒なことはしたくないかなぁ。


「……貴女が、面倒だからクラスのみんなを連れて帰らないってのはわかったわ」


「流石母さん‼ いい勘してるぅ」


「それ褒めてるの?」


 褒めてるんだよ。


「それで、これからどうするの?」


「んー、異世界に戻って旅をするかな。あの世界で遊ぶのは面白そうだし」


「相変わらずの愉悦主義ね。ここまで来たら尊敬できるわ」


「それがボクですから‼」


 エッヘンと胸を張る。ボクから愉悦を取ったら、ただのクールビューティな美少女ってのしか残らないじゃないか。


「という訳で、夜食を食べたら準備してあっちに戻ります」


「……分かったわ。普通なら止めるでしょうけど、貴女は言っても聞かないだろうから」


「よく分かってるじゃん」


「貴女の母親だもの」


 母親だからって、何でもわかるって訳ではないと思うけど。

 まぁいいや。母さんからの許可は降りたし。飯食って準備して、さっさと行こう。


 因みに夜食はベーコンとエノキのカルボナーラでした。



「──持っていくものは、マジックバックとマントと、魔力タンクと。……それから杖と銃も持っていこう。ていうか、持っていけるものは全部持ってこう‼」


 マジックバックっていう物がたくさん入るカバンがあるんだから、持ち物を厳選する必要はないよね。

 あ、あと宝石類とか持ってったら売れそうだな。


「さて、準備もできたし。……そろそろ行くよ」


「そう……怪我はしない様に気を付けてらっしゃい」


「分かってるよ。と言っても、ボクを傷つけられる存在なんて本当に限られてるけどね」


「だとしてもよ。その限られた存在が現れるかもしれないでしょ?」


 あー確かに。人生何が起こるかわからないから、気を付けるに越したことはないか。けど──


「──そんな存在に出会ったら、面白い事になりそうだなぁ」


 出会うかもしれない強者のことを、そしてそれを破壊した時のことを考えると、笑みを浮かべるのを止められない。


「その笑みやめなさい。気持ち悪いわよ」


「失礼だなぁ。……まぁいいや、じゃあ行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 そうしてボクはスキルを発動させる。


『──◻️◻️◻️◻️──接続、世界移動魔法、発動、行先、──リトラス──』


 ボクの目の前に黒い穴が出来上がる。

 ……ボクの旅がどうなるか判らないけれど。願わくば、沢山の愉悦で塗れてますように。


 そう願いながらボクは穴に足を踏み入れるのだった。








あとがき


Q…何でこんなに強い力を持っているんですか!!!!!

Q…何で異世界から初手で帰還してるんですか!!!!

Q…何で母親がこんなに強いんですか!!!!


A…僕の!!!! 愉悦と!!!! 深夜テンションが!!!!!! やれと!!!!!! そう、言ったから!!!!!!!!


どうもゼロです。

二話目をかいたのですが、ここにきてこいつを制御できるか不安になってきました。

因みに母親が、こうして止めずに送り出したのは、止めたとしても勝手に行くからだとわかってるからです。ただの諦めです。

あと多分、物語の途中で、僕でも理解不能な部分が出てくるかもしれませんが、それでもお付き合いいただければと思います。

それではまたね~。

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