噓作りのスタンプラリー(下)
二日目、快晴。
俺は午前中に仁山さんという人に会うため、指定された喫茶店に入った。広い店だったが、すぐに手を挙げて呼んでくれた。
「勝にそっくりだな。すぐにわかったよ」
仁山さんは眼鏡をかけた、細身の男性だった。市川さんほど表情は柔らかくないが、態度は落ち着いていて、何となく安心する。
「早速ですが、こちらが父から預かったものです」
仁山さんは手紙を受け取り、便箋の裏面を見た。
「手紙か」
「あと、これも」
市川さんのときと同様、「共用」と書かれた封筒を渡す。
「なるほどね。読んでいる間、好きなものを飲み食いしていなさい。高校生で自転車の旅の途中なんだろ。お金は気にするな」
お言葉に甘えて、ジンジャーエールとサンドイッチを注文する。自転車を漕いでいるとやたらと腹が減るのだ。ガソリンの代わりに自分のエネルギーを使っているのだから当たり前だが、想像以上に体力を持っていかれる。しかも今日は山登りだ。カロリーを補給しておくのは大事。
変に遠慮するよりは思い切って厚意を頂く。この辺の図太さは、誰に似たのだろう。父さんはどちらかというと遠慮するタイプだ。母さんだろうか。
市川さんと違って、仁山さんは僕の目の前で手紙を読んでいく。それとなく観察していたが、表情はほとんど変わらない。ただ、手紙はそこそこに長いものであるようで、サンドイッチが出てきて、食べ終わった頃にようやく読み終わった。
「なるほどね」
「何がですか」
「勝がどうして息子を寄越したか、少し不思議だったんだ。今回は特別というわけだ」
今回は? 何度もこういうことがあったのか。
「さて、勝からのリクエストだからな、私たちのことを話そうか。何を話したものかな」
カラオケの丁度いい時間を考えていた。歌いすぎれば喉が疲れて声が出なくなるし、短すぎれば歌い足りない。
「一人一時間ってとこじゃないの」
隣に立っている三葉が言った。ジーンズにパーカーというラフなスタイル。もっと可愛い服も似合うと思うが、本人は自分の目つきの悪さがコンプレックスらしく、シンプルな服装を選ぶ傾向がある。
「そんなもんか」
今から入って、と考える。出る頃には夕方になっているだろう。
「高崎のアリバイ工作をするなら、その辺のリアリティが重要だと思うんだ」
「そうね」
カラオケはよく使う手だった。一緒に入り、途中で高崎だけ出て下田に会いに行く。高崎の親には、ずっと一緒に歌っていたと証言する。実際の高崎の移動は自分たちと下田しか知らない。
下田と高崎の付き合いについては最初から知っていた。「ちょっと協力してほしいんだけど」と市川、勝、俺がいるときに話しかけてきた際、全て暴露されたからだ。
高崎の人選は正しかった。市川はお人好しで、三葉との接点ができることを喜んでいた。勝は茶化しながらも思慮深く、市川のために了承した。俺は、一歩引いて、勝と市川が乗り気ならそれに協力しよう、と思っていた。
つまり、三人とも秘密を守り、高崎に協力する人間だった。
おそらく、半年以上クラスメートを観察しての人選だったのだと思う。高崎は思いのほか周到で、人を見る目がある。
その目を、既婚男性に向けてしまったことだけは頷けないが。
待ち合わせ場所の駅前に早めに着いてしまった俺と三葉は、手持無沙汰になってしまった。暇なので、普段は聞かないことを聞いてみる。
「三葉はさ、高崎と下田の関係、どう思っているの」
「下田は最悪の教師だと思うよ」
飾り気の無い言い方に苦笑してしまう。
当時の三葉は茶色の髪を長めに伸ばし、度々生徒指導の教師にいちゃもんをつけられていた。入学したばかりの頃、地毛なのだと主張すると、黒に染めろと言われ、そこに高崎が割って入って撥ねつけたことが友達になったきっかけらしい。
「でも、ひろみが好きなら、仕方ないよね。ああいうのって、落ちるものだから。私は煙草吸う人って時点で恋愛対象外だけど」
恋は落ちるものとは、意外と恥ずかしいことを言う。
そういえば、高崎のことを下の名前、ひろみで呼ぶ人を、三葉以外に知らない。
「良かった、禁煙していて」
「未成年じゃん」
「まあな」
本当は、煙草を吸った経験だって俺にもあるのだが、言わないでおいた。本気で嫌われたくはない。
「その最悪の教師のためにアリバイ工作を手伝っていることは、いいのか」
「下田のためじゃなくて、ひろみのためだから。それに、私は結構あんたたちとの付き合いが嫌いじゃないんだ」
「それはどうも」
三葉は元々の目つきが鋭いせいで、怒っているのかと勘違いされがちだ。俺たちはそれが普通だと知っているので、今さら怖がりはしない。
男たちの雑な人間関係が、意外と三葉には心地よいのかもしれなかった。女だから女のコミュニティーが合っているとは限らない。
「そっちこそ、ひろみと下田のことはどう思っているの」
「別に、どうも思っていないよ。高崎、やるなあ、とは思っているかも。尊敬というよりは、感嘆って感じ。まあ、俺らは元々男ばっかりの三人だったから、そこに三葉と高崎が入って華やかになっただけでも嬉しいもんだ」
「単純だね」
「男子高校生なんてそんなもんよ」
高崎が下田と会うときはアリバイ工作に使われるが、そうでないときは普通に友達として接している。校外で私服の女子と会っているだけでも、なんとなく楽しい。三葉と高崎の外見が結構可愛いということもあるのだが、それはまだ誰も口に出せていない。俺たち奥手男子高校生にはなかなかハードルが高い。
「お待たせ」
そんな話をしていると、当の高崎がやってきた。後ろから勝も来る。
「市川ももうすぐ来るよ。一本後の電車に乗っている」
「ちょっと、場所移動しない? ここ、煙草臭い」
駅の喫煙所に近い場所にいた俺たちは、高崎の言葉でぞろぞろと移動した。
「今日は、二時間くらいで先生の所に行くから」
高崎の声は弾んでいる。
「これは、いつのことだったかな。たしか、高崎が死ぬ一週間前とか、その辺りだった」
体の芯に冷たいものが触れたように背筋が伸びる。青春の一ページかと思っていたら、高崎さんの最終ページかもしれない日のことだった。
「死ぬとは思っていなかった。高崎が死んだ後、三葉は私たちのグループと疎遠になった。受験勉強が本格化したのも、それを後押しした。五人で遊んだのはそれが最後だったし、三葉含めた四人で遊んだのも、最後になった」
仁山さんは、そこでふっと笑った。
「これは秘密にしていたんだけどな、高崎が死んだ後、私は三葉と付き合い始めた」
「そうだったんですか」
意外だ。斜に構えているようで、やることはやっている。
「というより、最初からだったらしい。市川が三葉のことを好きだと知っていたように、高崎は、三葉が私のことを好きだと知っていたんだ」
なるほど。お互いの接点を失いたくない者同士だから、波風立てず、自分のアリバイ工作を手伝ってくれると踏んだわけだ。高崎さんも、なかなか合理的が過ぎることをする。
一歩間違えれば友人関係が粉々になるような危うい関係性だが、終わりは別の形で訪れた。
そのとき、ちらりと悪戯心のような感情が湧いた。
本当に事故死か?
例えば、自分の恋心を利用されていたと知った市川さんが激昂して、何らかの方法で高崎さんを殺した。
そんなシナリオは描けないだろうか。
「高崎さんの死因は交通事故だったと聞きました」
「そうだな」
「本当に事故だったのでしょうか」
仁山さんと視線が交錯する。仁山さんは苦笑した。初めて、自然な笑顔を見た気がする。
「本当に事故だったよ。目撃者がいて、高崎は不注意で赤信号の横断歩道に出て行った。周囲には人もおらず、突き飛ばされたというわけでもない」
ただ、と仁山さんは声を潜める。
「高崎の血中からアルコールが検出された」
市川からも聞いたことだ。
「お酒を飲んでいたのでしょうね」
仁山さんは頷く。
「その日は、アリバイ作りを頼まれていなかった。だから、下田が関わっているのかどうかわからない。だが、高崎は飲酒していた。それは事実だ」
指でテーブルを叩いた。16分音符のテンポを刻む。
「市川さんもそう仰っていました。皆さんは、なぜ高崎さんが飲酒していたのか、ご存知ではないのですよね」
「ああ」
これは、どういうことだろう。
「普通に考えれば、下田が飲ませたと思いますけど。高校生じゃ、お酒買えませんし」
「そうだな。私たちもそう考えた。だから、高崎の偽の行動履歴を作った。誰かが不審に思って調べて、高崎がずっと下田と不倫していたことまで明るみになってしまったら大騒ぎになる。高崎がそれを望んだとは思えない。
警察に証言したわけでもないし、そもそも事件として扱われていたわけではない。だが、嘘をついたことはたしかだ。私たちは正しいことをしたつもりだが、その後、嘘を撤回し、改めて下田を糾弾するべきなのか悩み、話し合った。勝、市川、三葉と話して出した結論は」
俺は唾液を飲みこむ。
「保留することだった」
「保留?」
声が上ずってしまった。
「決められなかったんだよ。下田を糾弾して、それが正しくても間違っていても、下田の家族には大きな影響がある。下田自身は自業自得だけどな。私たちだって証拠を持っていたわけじゃない。そんな、条件も覚悟も半端な状態で、高崎の死を掘り起こし、下田のせいだと主張することはできなかった。だから、保留した」
仁山さんは「共用」の封筒から紙を抜き出す。
「私たちは不定期で、あの日の判断を再検討してきた。今からでも真実を公表するべきなのかってな。×は公表しない。△は継続で保留。〇は公表すべき、だ」
父さんは×、市川さんは〇をつけていた。仁山さんはペンを取り出し、△を書き込んだ。
「市川は昔から、自分たちの嘘が良くないと言っていた。勝は、昔から高崎の死はそっとしておこうという立場だった。私も相変わらず保留、だ」
封筒にしまい、俺に返す。受け取った封筒は、重みを増していた。
「そして今回、あれから二十五年。勝は最後にしようと手紙に書いていた。ずっと保留にしてきたこの問題を、今回を最後に決着させよう、と。今さらどうするのかはわからないが、三葉が〇をつければ、私たちは当時、高崎の親御さんについた嘘を謝罪する。そして、下田と高崎の関係を話し、飲酒の真相も、おそらく下田と会っていたからだと伝えることになるだろう」
仁山さんは便箋を鞄にしまった。あれには、そういうことが書いてあったのか。
「君が来たのは、時間の経過を私たちに知らしめるためだろうな。二十五年も経ったぞ、そろそろ終わりにしよう、と。私なんかは独り身だから、時間の経過に疎くなってしまってね」
勝と言えば、と仁山さんは言いかけて言葉を止めた。目線が遠くへ行く。
「何ですか」
「いや、これは……そうか、これが最後なんだよな。そして君が来た意味は、もしかしたら、そういうことなのかもしれない」
仁山は頷き、俺を見た。目には、さっきまでとは違った光がある。
「私が三葉と付き合っていたことを、勝と市川は知らない。秘密にしていたんだ。同じように、勝と三葉も、高崎に関して私に何かを隠している気がするんだ。そういうのって、何となくわかるだろう」
仁山さんはそう言うが、あいにく、友達がいない俺にはわからない。幽霊さんの、「そうそう、わかるわかる」という声が聞こえたので頷いておく。
「それがあの日の真相と繋がっているのかはわからない。掘り返すつもりも、本人たちに聞くつもりもなかったからな。だが、二十五年経った最後に、君が来た。君は勝の息子だが部外者で、この話をできる、唯一の人物なのかもしれない」
「何を隠していたのでしょう」
仁山さんは首を振った。
「わからない。というか、知りたくないのが本心だ。あの二人は、今でもたまにだが付き合いが続いている。それを失うような真実が出てきてほしくない。君でなければ、高崎と無関係の人でなければ、こんなことは言わなかっただろうな。たとえこの先、君が真実を知ることになっても、私には話さないでくれ」
◇
自転車を押していた。山道の上り坂を漕いで上がることは早々に諦め、荷物を括りつけた重い自転車を押して歩く。軽々と追い越していく車が恨めしい。
「三葉さんは〇をつけるのかな」
自転車の荷台に腰掛けて悠々としている幽霊さんが聞いてくる。俺としても気が紛れるので会話はありがたい。他に聞いている人もいない山道だ。
「どうかな。でも二十五年も保留を続けていた人が、これが最後だからって〇にするとは、ちょっと考えづらい。あり得なくはないと思うけど」
仁山さんと話したことでだいたいの背景はわかった。俺が派遣された理由も仮説が立った。死んだ高崎ひろみ。アリバイ工作に加担していた四人。不倫していた教師。交通事故死。アルコール。嘘の証言。
息が上がる。地図上では滝まではもうすぐのはずだが、もう一時間も登っている。
「市川さんと仁山さんで、ずいぶん印象が違った気がしない?」
幽霊さんは顎に手を当てて口をへの字にしていた。
「そうかな。どう違った」
「市川さんは、親友だ、親友だって疑いなく思っているけど、仁山さんはもっとクールというか、線を引いている気がした。君のお父さんと三葉さんの秘密にも勘づいていたでしょ」
言われてみるとそんな気がしてきた。相手を疑う余地なく信じている人には、秘密や嘘を見抜けない。
仁山さんの様子を思い返しながら喋る。
「多分、打算を許すかどうかなんだ。市川さんは、経緯はどうあれ、一緒に過ごした時間が友情を裏打ちしていると考えているのだと思う。一方で、仁山さんは、そうだな、友情に対して潔癖というか、利害関係を越えてこそ友情だと思っているというか。きっと、実はロマンチストなんだよ」
クールに見えて、実は市川さんよりも友情に対して熱い想いを持っているのが仁山さんなのだろう。
幽霊さんは、ロマンチスト、と愉快そうに笑って言う。
「三葉さんと付き合っていたということは、仁山さんは友情よりも、恋愛の一段階目としての思い出なのかもよ。三葉さんと親しくなった経緯として、高崎さんのことを思い返しているのかも」
息を切らしながら考える。
仁山さんにとって、彼らの中心は高崎さんではなく三葉さんなのかもしれない。高崎さんの死の真相よりも、それを公表して三葉さんがどう感じるか、それを重要視しているとしたら、三葉さんの意思に委ねる、保留という意思表明も説明できる。
「あり得るな」
「そうでしょ」
「父さんと三葉さんは、何を隠していたんだろう」
少なくとも市川さんは、仁山さん達のことを親友と呼んでいた。その親友にすら明かせない秘密があったのか。
「親友だからこそ言えないことってあるよね」
「俺には親友なんて呼べる人はいないからわからない」
「あ、ごめん。そういうつもりじゃなかったの」
謝られると余計に悲しくなった。強いて言えばピアノが親友だったのだろうが、先日絶交宣言したばかりである。
「ま、親友の有無はともかく、親しいからこそ言えないことがあるのはわかる」
母さんに、ピアノを辞めたいと相談できなかったことも、相手の気持ちを理解しているから言い辛かったことだ。
「嫌われちゃうような秘密だったのかもね」
何にせよ、仁山さんの直感にすぎないし、それがどれほど大きなことなのかもわからない。ここでそれを明らかにできる情報もない。
一度自転車を停め、前籠からスポーツドリンクを出して飲んだ。滝は近いはずなのだが、道が曲がりくねっているせいで残りの距離がよくわからない。
「高崎さんは、本当の本当に事故死だったのか、仁山さんの話を聞いたら疑わしくなってきたよ」
「仁山さんは本当の本当に事故死だって言っていたけど?」
「飲酒していたんだろ。じゃあ、誰かが酔っぱらわせて間接的に高崎さんを事故に遭わせたって可能性はあるんじゃないか」
泥酔していたら、そういうこともあり得ると思うのだが、市川さんからも仁山さんからも、そういう発想は読み取れなかった。
「酔っぱらった人が車道に飛び出して車に撥ねられる事故って、聞いたことある? 大抵電車じゃない?」
幽霊さんは、景色を楽しむように海の方を見ている。
「そういえば、たしかに」
「ふらつくほど酔っていても、意外と車道に転がり出るほどにはならないものだよ」
「酒飲んだ経験あるの?」
幽霊さんはしまった、という顔を一瞬浮かべ、照れたように笑った。
「まあ」
あるのか。高校生のくせに。仁山さんは喫煙経験があると言っていたし、上の世代は不良だらけなのか?
とはいえ、飲酒未経験の俺と経験者である幽霊さん、そして市川さんや仁山さんでは、アルコールに対する理解が違う。泥酔させて車道に転がり出させることは難しいらしい。そこは素直に受け入れよう。
明日、三葉さんに会ってから考えることもできる。
「ねえ、ところでさ、ピアノ、もう弾かないの?」
幽霊さんの言葉に顔を向けると、思いのほか真摯な目線がぶつかった。
「聞いてみたいって言ったら、弾いてくれる?」
「それは、……保証しかねます」
「なんで敬語なの」
俺自身、ピアノに対する思いが整理できていないのだ。ピアノを弾くことは、最初は楽しかった。いつからか苦痛になり、そして飽きた。
俺の手は今も動く。そらんじている楽譜を思い浮かべれば、すぐにだって何曲か弾ける。だが、それは敗北感とセットなのだ。
「俺は、ピアノで負け慣れてしまった。優勝や入賞ができたら、それは嬉しい。でも、心のどこかでは、勝てるわけがないと思って弾いていたんだ、本番でもね。そんな奴が勝てるわけがない。勝つつもりでやらないと、勝てるものも勝てない。でも、辛いんだよ。本気で勝つつもりで挑んで跳ね返されて、自分では完璧な演奏をしたつもりでも、審査員の心には掠りもしなくて。そんなことを繰り返していたら、自分に期待しない方が楽になってしまった」
俺はどうしてこんなことを語っているのだろうと思ったが、喋りながら答えが出た。これも、親しい人には言えないことだ。
「ピアノは、弾こうと思えば弾ける。でも、俺のピアノには諦めや、負け犬根性が付いて回るんだ。どうせとか、やっぱりとか、無価値だとかね。そういうのが染みついてしまっている」
コンクールに出続けていたから、同年代の知り合いはできた。でも、彼らにこんなことは言えない。こんな後ろ向きな言葉は吐けない。
「そんな気持ちで弾きたくないんだよ。俺は、本当は」
本当は、何だ?
形にならない気持ちを探して必死に語彙をたぐる。幽霊さんと目線を合わせながら、ハンドルを指で叩いた。
「好きに、なりたいんだと思う。楽しい気持ちで弾きたかったんだ。誰かと競ったり、間違えてはいけないってプレッシャーの中で弾いたり、そういうことをしたくない」
「私には間違えてもいいよ」
「え」
「間違えたっていいじゃない。それで演奏全ての価値がなくなるわけじゃないんだし、なんなら、ライブっぽくアレンジしましたってことにしちゃってさ。君の努力は、ちょっとしたミスなんかで消えるものじゃないと思うよ」
気軽に言われた言葉に、急に言葉が出なくなった。
口を開くが、唇が震え出して言葉にならない。青空がくっきりとし、視界の樹々が緑を強めた。一枚、視界のフィルターが剥がれたようにはっきりと見える。
心が溶けたような気がした。背中をさすられたような、喉の詰まりが落ちていく感覚が胸を緩めていく。
そうだ。俺はもうコンクールに出ない。
「うん」
「ちょっと、泣いてんの?」
「うん」
あたふたしている幽霊さんに、まともに返事ができなかった。
誰にかわからないけど、ずっとそう言ってほしかったんだ、俺は。
辞めて良かった。俺は、自分が思う以上に、競技としてのピアノに向き合う限界を超えていた。
誰の目線も気にすることなく楽しめたら、またピアノを弾けるかもしれない。でも、今はまだ弾けそうになかった。
平岩の滝は、巨大な平たい岩に入った水平方向のいくつもの亀裂から水が溢れ出し、落差の小さい滝状になっている変わった滝だった。
「こんな場所があったのか」
同じ県内でも知らないものだ。見物人は俺たちだけで、案内看板もたった一枚しか見かけなかった。
幽霊さんは近づいてよく見ていた。
「どうして水が噴き出ているんだ」
適当に疑問を口に出すと、幽霊さんが振り向いた。
「ここ、見て」
指さされた箇所を、俺も近づいて見る。水が噴き出る亀裂のうちの一本だった。
「これが?」
「亀裂の上下で岩の色が違うでしょ。下の方は水を通しにくい岩石で、上の方は通しやすい岩石なの。上から染みてきた雨水がここの岩で遮られて、横方向に染み出てくる。だから水が噴き出るの」
「詳しいな」
「受験生のくせに、大丈夫?」
「それを言われると弱い」
一応文系クラスにいるけれど、文理どちらに進むかもはっきり決めていないのだ。決断することは多いし、覚えることはもっと多い。
滝の下は小さな池になっていて、水質も綺麗そうだったので顔を洗った。氷で洗われたみたいに気持ちよくて、くうっ、と声が出た。
日陰になっているせいで暑さが和らぐ。一時間くらいここで休憩していてもいいくらいだ。
だが、のんびりしているだけともいかない。
「来てみた感想は?」
手近な岩に腰掛けて幽霊さんに質問した。一応、ここが旅の目標地点だった。そしてそれは、幽霊さんの未練に関係があると考えてのこと。
「連れて来てくれてありがとう」
「成仏するのか?」
半透明の少女は、そのまま消えそうな儚さをまとって、木漏れ日が差す樹々を見上げた。映画のワンシーンのようで、胸が熱くなる。
この子は消えるんだな。そう感じた。
「しないみたい」
気のせいだった。
「ごめん、来てみたい場所はここだったんだけど、成仏できないっぽい」
「できないっぽいですか」
「ええ、はい。申し訳ない。勘違いでした」
舌でも出しそうなへらへらした顔で謝る幽霊さんを見て、思わず笑ってしまった。それからたっぷり一分間、俺は大声で笑い転げた。
幽霊さんは、最初は戸惑い、途中から不機嫌になったが、俺は笑いが止まらなかった。
申し訳ない、だなんて。そんな風に間違いを認めて、許されていいのだ。勘違いしていいのだ。
俺の心に責める気持ちはさらさら無いし、謝られても驚くほど何も感じなかった。ただ、笑えただけだ。自分と、幽霊さんがやっていることは的外れで、何の根拠もなくて、勢いだけでここまで走ってきた。
その成果が、勘違いだったなんて。何て最高に無駄だろう。
得たものは、ただ楽しく喋りながら自転車を走らせてきたことだけ。何にもならない。でもたしかに、俺の手には残っているものがあった。
「ああ、馬鹿だな、俺ら」
ようやく笑いが収まった頃には、幽霊さんも何かを諦めた半笑い顔で俺を眺めていた。
「ごめんって」
「いいんだよ、謝らなくて」
この旅は、無駄なことをしてのんびりするためのものなのだから。
「ここを提案してくれてありがとう。あと、一緒に来てくれてありがとうな」
「それ、私が言うことだと思う」
また笑いが込み上げてきた。来て良かった。車ではなく自転車で良かった。疲れた体がへとへとになるまで、俺はまた笑い続けた。
無駄なことに勢いだけで取り組んで全力を出すなんて、ずっと憧れていた、恥ずかしい言い方をすれば、青春そのものだった。
その夜、ホテルに戻った俺たちは部屋で寝転がっていた。シングルベッドなので、寝ているのは俺だけだが。幽霊さんは夜中、その辺を散歩しているのだという。
「翔太君の意識がないと、私の意識もぼんやりするんだよね」
「そうなんだ」
俺は早くも襲ってきそうな睡魔に抗い、体を起こした。ホテルの一階では洗濯機を回している。乾燥機にかけて回収するまで寝られない。
「成仏できなかったけど、どうしよう」
「さあな。あの滝は、どういう思い出の場所なのか、聞いてもいいか」
幽霊さんは、顔を赤らめ、もじもじした。今までなんでもはきはき答えていたので、嗜虐心が刺激される。
「好きな人と、来た場所」
「それはそれは。お熱い思い出だな」
俺はその話を聞いて、胸が痛まないことに安心していた。どうやら恋に落ちてはいないようだ。
「そもそも、未練があるからこの世に留まっているというのも、本当かどうか怪しいしな。俺から離れてもらうには、別の方法が必要なのかもしれない」
「やっぱり、迷惑だよね」
「迷惑ってわけじゃないけど、近くにいられると気が散る。俺に彼女ができたらどうするんだ」
「当分なさそうだけど」
「うるさいな。来月にはできているかもしれないじゃないか」
「まず友達を作りなよ」
それは、ぐうの音も出ない正論だ。
「幽霊さんには友達がいたのか。いや、彼氏がいたんだから当然か」
「そりゃあね。男女混合グループで仲良く楽しく女子高生していたよ」
「羨ましい限りだ。じゃあ、どうして自殺なんてしたんだ」
言った後で、しまった、と思った。
明らかに空気を変えてしまった。幽霊さんの表情が曇り、悲し気な笑みに変わる。
脇役なのに主役ぶったから、昨日はそう言っていた。
「どうして、私は成仏できないんだろうね」
返ってきた言葉は、文脈とはずれていた。でも、聞かなくて済んだことに安堵している自分がいることもたしかだった。聞いたら、それこそ本当に成仏してしまいそうで。
どうやら俺は、この旅の間くらいは一緒にいたいと思っている。
「自殺したって言ったじゃん。一応、私なりに納得してこの世にお別れしたつもりだったんだけど、何が未練なのかな。やり残したことでもあるのかな」
俺が知るわけない。だが、きっとあるのだろう。
「私が一番不思議なんだよ。死んだことは、まあ、冷静になれば馬鹿なことしたなあ、と思っているけど後悔はしていないし、特別にやりたいこともない。どうして翔太君に憑いてしまったのかもわからない」
「幽霊さんにないのなら、別の誰かにあるんじゃないか」
「別の誰か?」
「幽霊さんは、別の誰かの未練なんじゃないか。その誰かの未練を晴らすために、この世に留められている、そう考えられないか」
自転車を漕ぎながら、俺だって何も考えていなかったわけではない。滝を見て成仏しなかった以上、一般的に信じられているやり方では幽霊さんは成仏しない。ならば、そうでない可能性を検討する必要がある。
「そんなこと、あるのかな」
「さあね」
俺は質問する。
「死んだ場所は覚えている?」
「えっと、うん」
「そうか」
◇
三葉さんに指定された場所は公園のベンチだった。仕事を抜けてくるため、職場の近くで、ということらしい。約束の時間の二十分前に着いて待っていたら、三葉さんは俺の十五分後に現れた。
今までと同じように挨拶を交わし、「共用」と「三葉へ」と書かれた封筒と便箋を渡す。俺は三葉さんが手紙を読み終わるまで、ぼんやり過ごした。
三葉さんはノースリーブにワイドめのパンツで、格好いいビジネスウーマンという雰囲気だった。括った後ろ髪から覗くうなじが涼し気に色っぽい。市川さんや仁山さんの話で聞いたように、女性としては背が高い。よく考えると、市川さんや仁山さんよりも俺は背が高い。本当はピアノよりもスポーツの方が得意だったのかもしれない。
なぜか幽霊さんがしゃがみ込んで、ベンチに座る三葉さんの顔を正面から覗き込んでいた。何をやっているのか、後で聞いてみよう。
「なるほどね」
三葉さんはそう言って手紙を便箋にしまった。
「ペンある?」
「あ、はい」
父さんからボールペンを持っていくように言われていたので用意している。三葉さんは俺のペンで「共用」の紙に×を書き込んだ。
「はい」
「どうも」
なんというか、言葉が少ない。市川さんと仁山さんは、雰囲気は違えど、俺に対してかなり気を遣ってくれた。三葉さんは一言一言が短く、怒らせてしまったのかと思ってしまう。
そういえば、仁山さんたちもそんなことを言っていた。目つきが鋭いせいで、怒っていると周りに思われてしまう人なのだと。
思い切って踏み込んでみることにする。こういうとき、物怖じという感覚を知らない自分の精神に感謝する。
「聞いていいですか」
「何?」
「父さんの、高校時代の友人だと伺いました。高崎ひろみさんは、本当に事故死だったと思いますか」
三葉さんは右目だけ目尻を上げた。
「どういう意味」
「三葉さんの意見を伺いたいんです。俺は市川さんと仁山さんから、皆さんのことをある程度聞いてきました。その「共用」の紙に書かれた〇×△の意味も知っています。直接の死因は事故死でも、間接的に、下田が関係している可能性はないのでしょうか」
三葉さんは、しばらく俺をじっと見つめ、ふっと微笑んだ。
「そこまで、初対面の君に言う必要はあるかな」
言葉の調子が柔らかくて安心する。この人は心の底から拒絶しているわけではない。高校生、つまり子供相手で気を遣っていないわけではないのだ。見た目で損をしている。
「俺が相手だから言えることもあると、仁山さんは仰っていましたよ。これが最後だから、いつもなら言えないことも吐き出せる相手を、父さんが派遣したんだろう、て」
「ふうん、仁山君がそんなことを言ったんだ。彼、元気にしている?」
「ええ、お元気そうでしたよ」
「そっか。もう、こんな物騒な話題でしか話さなくなっちゃったから、最近のプライベートはよくわからないんだよね」
「独身でした」
「あ、そう。まあ、そんな気はしていたけど」
三葉さんの左手には指輪が嵌まっている。彼らには彼らの物語があって、どこかのタイミングで道が分かれたということか。
「岩瀬、あ、これは旧姓か。ええと、今は四合勝君になったんだっけ」
「そうです」
父さんは結婚する際、婿養子に入った。四合は母方の姓だ。
「まさか四合さんと結婚するとはね。あれは驚いたなあ」
「母をご存知なんですか」
「私たちの高校があったエリアじゃ、有名なピアノ少女だったよ。大学に入って以降は知らないけど」
そうなのか。音大主席入学も、実は誇張ではないのかもしれない。その後成功しなかったことを考えると、無邪気には喜べないが。
「君は、何歳?」
「十八です」
「ひろみの話をしようとすれば、お父さんのことに触れざるを得なくなる。聞きたくないことも含まれるかもしれない。それでもいいの?」
俺は迷わず頷く。
「構いません。父さんが何をしていたにしろ、どんな子供だったにしろ、俺は俺です。それに、そういう話も込みで俺に聞かせるのが、俺が派遣された理由なんじゃないかと思っています」
「そうなのかな。私なら子供に聞かせたくないけれど」
俺は唾を飲んだ。今までは、昔の思い出話をするだけで、その前にこんな剣呑な前置きはなかった。
でも、ここまで来て半端では帰れない。もはや俺は、ただのメッセンジャーに収まるつもりはなかった。高崎ひろみさんに何があったのか、そして、父さんが何を隠し通したのか。俺は知りたい。
「二十五年か。たしかに、最後に話さないと誰も知らないままになるんだね。それがいいのだと思うけど、勝君は子供に聞かせるのか。まあ、たしかに我が子に直接は言い辛いから、私に言わせるのかもね」
三葉さんは時計を見て、太陽を見て、大きく息をついた。
「私はこんな髪だから、生徒指導とは昔から犬猿の仲だったの。それで揉めているところを助けてくれたのがひろみで、うん、とても好きだった」
俺は身構える。高崎さんと下田の話ではなく、父さんの話を、これから聞くのだ。
高崎ひろみは最悪の女だった。でも、三葉にとっては最高の友達だった。
高崎が、高校最初の九か月間で付き合ったりデートをしたりした男子の数は十を超えていた。それに三葉が振り回されたことは一度や二度ではない。
「三葉も彼氏つくればいいのに」
三葉はそう言われる度、やんわりと断った。断るのも面倒になり始めた頃、ひろみの男遊びは唐突に終わりを告げる。あろうことか、担任教師に手を出し、付き合い始めたというのだ。
大変なことになった、と戦慄した。
今まで、男癖が悪くても、所詮は高校一年生レベルで済んでいた。これが、担任教師、しかも妻子持ちとの不倫となると、最悪、数人の人生が狂ってしまう。
「やめた方がいいって」
三葉は友人として、真摯に忠告した。改まって、正座して、部屋で二人きりになってリスクを懇々と説いた。いつもの遊び気分で手を出していい相手ではない。男好きなのは責めないが、今回はひろみが責任を取れる範囲を超えている、と。
「わかっている」
高崎は言った。
「でも、ごめん。今回は本気なの。もう他の男の子とは付き合わない。本気で結婚しようとか、奥さんから略奪しようとか、そんな気はない。だから、私に協力してくれないかな」
一度言い出したら引かない。それは高崎の厄介な点であり、三葉が助けられた性格だ。そして三葉は、ひろみのそんなまっすぐな面を尊敬している。
「協力って、私は助けてあげられないよ」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと考えてあるから。仁山君を頼ろうと思うんだ」
三葉の心臓が大きく跳ねた。
私の好きな人の名前が、どうして出てくるの。
「私が先生と会っている間、私は三葉と一緒にいたことにしてほしい。でも、三葉一人じゃ大変だし説得力に欠けるから、仁山君のグループに入れてもらおう」
「仁山君たちが嫌がるよ、そんなの」
三葉の悲鳴のような反論は笑ってスルーされた。
「言ってみないとわからないよ」
高崎を止めるために話を始めたはずが、いつの間にか逆に協力することになってしまった。しかもひろみは仁山、市川、勝のグループと話をつけ、自分が下田先生と付き合っていることも暴露して、思い通りにことを運んでしまった。
素直に感動した。ここまで上手くいくものなのか。
それからは好きな人と過ごす時間が増えたので、三葉はひろみと下田の付き合いに強く反対できなくなった。不謹慎な話だが、下田とひろみのデートが増えればいいとすら思っていた。それだけ、仁山と過ごせる口実が増えるから。
繰り返すが、高崎は最悪な女だ。
三葉が協力することになったのは下心が理由だったし、当時、何よりも重要なことだった。高崎の死後付き合えることになったから、その点で感謝もしている。
でも、他人の恋心を利用したのはそれだけではなかった。市川が三葉のことを好きだという気持ちも、高崎はわかった上で話を持ち掛けていた。
三葉には、自分が同じ立場だったからよくわかる。市川は高崎を裏切れなかったし、仁山と勝も、友情を壊さないためには協力せざるを得なかった。
そしてその協力関係をより強固にするために、高崎は迷わずベストを尽くした。
ある夜、高崎から電話がかかってきた。
「三葉、何していた?」
「いや、特に何も。漫画読んでいた」
「そっかー」
高崎の声が普段と違う。浮ついているというか、だらしがない。
「大丈夫?」
「うん、ちょっとお酒飲んだだけ」
え、と声が出た。今日は仁山たちの都合がつかなくて、アリバイ工作なしで下田と会っていたはずだ。じゃあ、下田に飲まされたのか。
「教師がそんなことしちゃ、だめじゃん」
「私がねだったの。先生は悪くない」
高崎はむきになって言うが、ねだられても止めるのがあるべき教師の姿だ。額に手を当て、ため息をついた。
「ひろみさ、本当に色々と大丈夫?」
「当然でしょ」
その声はお酒で鈍った脳から出たもので、全く信頼が置けなかった。
「実はね、ふふ、お酒の勢いで三葉に言っちゃいたいことがあるの」
「何でしょうか」
内心、早く会話を終えたかった。酔っ払いの相手をしているのだと思うと、会話にやる気が出ない。
高崎は急に真剣な声になった。
「口止めするために、岩瀬君とやった」
「……本気で言っている?」
やった、という言葉の意味は、さすがにわかった。体を売ったのだ。
「本気。市川君は裏切らない。三葉のことが好きだから。でも、岩瀬君は私を裏切らないメリットが薄い。だから、メリットを提示した。求められれば、これからもやる」
言葉が出なかった。そこまでやるのか。好きな人との時間を守るために、好きでもない人と関係を持つのか。
「先生とのことをばらしたら、私の体も失うことになるから、これで岩瀬君は裏切らない。仁山君には手を出さないから安心して」
「そういうことじゃ、なくない?」
「そういうことだよ。市川君と岩瀬君が私の確固たる協力者になれば、仁山君が一人で無理やり私と先生のことを暴露したりはしないでしょ」
呆気に取られた。そこまでやるのか。
高崎に対してほとんど無根拠に好意を持っている三葉でなければ、こんな話を聞かされた時点で軽蔑したかもしれない。友達をやめた可能性だってある。
でも、高崎は使える手札、つまり自分をフルで使っているだけなのだ。表面的には、誰も迷惑を被っていない。
でも、だとしても。
「そうだね」
彼女は信じたことを迷わない。だから私を助けてくれたし、本当に好きな人と一緒に過ごすために全力を尽くす。
私だって、彼女を裏切ることはできないほど丸め込まれていた。
三葉さんは口を閉じ、チラチラと俺の様子を盗み見た。
「父さん、そんなことをしていたんですね」
「大丈夫?」
「多少、いやかなり驚きましたけど、意外と平気です」
俺に友達は少ないが、彼らの話が高校生としては変則的な恋愛だということはわかる。高崎さんの体の使い方は、大人でもやらないような割り切り方だ。
「父さんを口止めするため、か。まあ、有効だったでしょうね」
男子高校生にとって、体を好きにできる女子の同級生なんて貴重な存在、手放したくないだろう。不倫の秘密をつぐむくらい安いものだ。
仁山さんが感じていた秘密はこれか。親友に言えるわけがない。
「四合さん、君のお母さんには絶対に言っちゃだめだよ」
三葉さんの真剣な様子に、噴き出して笑った。そこまで察しは悪くない。首を振って言う。
「言いませんよ。二十五年前のことなんて、今さらでしょう。しかも亡くなった方のことですし」
死者の名誉のために嘘の証言をした彼らの気持ちが少しわかる。死者は何も言えない、反論も弁解もできないからこそ、適当な話をしたくない。
「母さんも、怒りのやり場に困るでしょうから」
若くして死んでしまった同い年の女の子に対し、全力で怒れもしない。やり場のない怒りで変にこじらせられるよりは、黙っておく方が無難だ。
俺だって、家庭は平和でいてほしい。
「ああ、言っちゃったなあ。普通、子供に聞かせる話じゃないよね」
三葉さんは額に手を当てて俯いている。俺がもう少し年少の頃、もしくはピアノに苦しんでいた頃に聞いたら違う印象を受けたかもしれない。今は、少し余裕がある。
そんなことを思う一方で、俺は、少し別のことを考えていた。
◇
三日間走って、さすがに体が疲れている。
休憩していたコンビニで父さんに電話をかけた。母さんが買い物に出る時間を教えてもらう。母さんは俺が帰ってくるのを今か今かと待っているらしい。心配性なことだ。家はもう、すぐそこなのに。
タイミングを合わせ、僕は自転車に跨った。幽霊さんも後ろに座り、最後の休憩を終える。
途中、通りがかった交差点の信号待ちで俺は言う。
「高崎さんが死んだの、多分ここだろ」
返事はない。幽霊さんが何を考えているのか、わかる気がした。
自転車は最後までトラブルなく走ってくれて、やがて我が家に帰り着いた。駐車場を確認すると、母さんの車が無い。想定通りのタイミングで帰って来られたようだ。
「ただいま」
「おかえり」
玄関で靴を脱いでいると、父さんが現れた。玄関の匂いに、家に帰ってきたと感じる。
「はい、これ」
何はともあれ、封筒を渡す。父さんは少し緊張した面持ちで中身を見た。ふう、と息を吐いて緊張が解ける。
「やっぱり、嘘は嘘のままにしておきたかったんだな」
「当たり前だ。大人だって怒られたくはないんだよ」
父さんはこういうところがある。大事なことを、茶化して話す。聞いていないようで聞いている。言っていないようで言っている。
秘密を暴露しない方がいいと、本気で思っていたのだろう。
「三葉さんしか知らなかったよ。高崎さんと父さんの関係」
俺たちの視線が交錯する。父さんの視線に鋭さはなかった。
「そうか、やっぱり三葉は知っていたか」
「父さんが知りたかったのは、それだろ。誰がどこまで知っていたのか。自分じゃ聞き出せないから俺を使った」
できるだけ、責めるような口調にならないように気をつけた。
「そろそろ時効だと思ってな、みんな口を割るだろうと思ってよ。いい加減、答えを出したかったのも本当だぞ。あのことを考えると、ずっと落ち着かなかった」
父さんは封筒に紙を戻し、両手で挟んだ。
「これにて多数決の結果、高崎は死ぬ間際まで父さんたちと一緒にいた。下田は無関係であることに決まりました」
あまりの欺瞞に鼻で笑ってしまった。それを見て、父さんは苦笑した。真実はこうやって作られるんだとでも言いたげに。
おそらく、俺を派遣した理由はそれもある。俺を前面に出すことで、父さんの、今の生活を乱したくないという意思を暗に押し付けた。〇をつけるということは、息子をも巻き込んでしまうのだと、印象づけたかったのだろう。思惑通り、あくまでも四人の意思で、高崎さんの死の真相は秘されることとなった。
「不潔な親父だな」
言外に様々な思いを込め、軽く言う。
「若かったんだよ」
父さんの返事も色々含んで軽かった。
会えばもっと嫌悪感を抱くかと思っていたが、驚くほど自然に父さんと高崎さんのことを受け入れられている。俺も男だということだろうか。むしろ、羨ましいと思う側面がないでもない。
「でも、仁山さんは微妙に勘づいていた」
「マジで?」
「具体的なことはわかっていないと思う。でも、何か隠していることはわかっていたよ」
「危ないな。さすが仁山」
「でも仁山さんは三葉さんと付き合っていたんだって」
「本当かよ」
父さんの反応を見る限り、隠し事をしているのはお互い様だったようだ。本当に変な友人関係だ。
荷物を引き入れ、洗濯物を洗濯機に突っ込んでいく。ついでに着替える。
彼らの関係は、秘密と打算が絡まっていた。仲良くなるきっかけも、関係が維持された背景も。ほとんど何も知らないであろう市川さんだけが、綺麗な思い出として振り返っていられる。高崎さんの死後、三葉さんが離れていったことは必然だ。男たち三人が三人とも、別の感情で行動を共にして、かつ、それを隠し合っていることを知っているのだから、いたたまれなくもなるだろう。
「高崎さんの死後、付き合い始めたらしいよ」
「それは見事に隠されたもんだ。まあ、市川がいたから言えなかったんだろうなあ」
俺が思うほど、親友という関係は何でも話せるものではないらしい。親しき仲にも礼儀あり、ではないけれど、親しき仲には秘密あり、だ。
そして俺は、父さんの秘密を知ってしまい、もう一つの秘密に気づいてしまった。
おそらく、父さんが本当に隠したかったこと。そして、俺が辿った旅の意味を。
洗濯機のスイッチを入れる。
「父さん、これは誰も気づいていなかったよ」
「うん?」
「高崎さんのお腹の中にいた子は、俺の腹違いの兄弟だったのかな」
ゆっくりと振り向く。そこには、顔が真っ白になった父さんが目を見開いて棒立ちになっていた。
そこまで知られるつもりは、きっとなかったのだろう。俺も気づくつもりはなかった。
「どうして、そこまでわかったんだ」
「色んな偶然が重なったんだよ」
あるいは必然が。
「仁山さんの話に、亡くなる約一週間前の高崎さんが出て来た。煙草の煙を嫌がって移動したそうなんだよね。でも、これはちょっとおかしい。だって、下田は喫煙者だったんだから。
同じ空間で吸われるのが嫌ならまだわかる。でも駅前で、喫煙所から漂ってくる程度の臭いを嫌うほどなら、下田と付き合うのは苦痛じゃないか。だから、高崎さんは元々煙草の臭いが嫌いなのではなく、煙草の煙を避けるようになったのだと推測した」
突然副流煙の有害性が気になるようになった理由。
「つまり、高崎さんは死の直前妊娠していた。そういうことだろ」
父さんは、紙のように白い顔のまま何も言わない。洗濯機が給水する音だけが響く。
「三葉さんいわく、高崎さんは、下田と関係を持って以降、男遊びをやめた。つまり、該当する期間に性交したのは下田と、父さんだけだった。高崎さんは周到に、注意深く付き合っていたみたいだから、妊娠も意図しないものだったんだろう。だけど、だとすれば逆に、相手は下田か父さんかわからないってことになる。普通に考えれば、妊娠させた可能性が高いのは下田の方だと思う。でも、もしも父さんが妊娠させていた場合、大変なことになる。産むにしろ堕胎するにしろ、受験生が抱えられる悩みじゃない。想像もしたくないくらい大騒動になるよな。妊娠していることを告げられたときの心情、お察しするよ」
そして、高崎さんは死んだ。
「父さんが恐れたのは検死されることだった。違う?」
父さんは何も言わず、目を伏せた。充分に雄弁だ。
「実は妊娠していたことがばれて、その子と親子鑑定をされたら、もしかしたら自分が父親なのだという事実が明らかになるかもしれない。だから嘘の証言を行い、事件性が無いとアピールした。でも、市川さんたち他のメンバーは父さんの態度に違和感を覚え、何度もそれを再検討することになった。そんなところかな」
大部分を想像で補った。噓の証言を父さんが提案したのかどうかはわからない。でも、人が死んで、すぐに嘘の証言をすることを決断できる人は多くないと思ったのだ。それは、それだけの理由を持つ人に限られる。
「もう」
父さんは能面のような顔で呆然と呟く。
「高崎の死体は荼毘に伏された。火葬され、何の証拠も残っていない。真実なんてものはどこにもない」
俺は首を振る。
「責めるつもりはないよ。父さんが何をしていても、仮に育てる決心を固めていたとしても、高崎さんの死は変わらなかったと思うから」
父さんに責任を負う覚悟があったのかどうか、俺にはわからない。たとえ覚悟を決めたとしても現実的に子供を育てることは叶わなかったとも思う。高校生なんて、所詮は子供なのだ。
父さんの中には、そのときの迷い、高崎さんが死んだことによる安心が今も罪悪感となって残っている。まるで、高崎さんの死を喜ぶように。そして、片付かないまま今を迎えてしまった。
卑怯だと、無責任だと、人情が無いと、そう言う人もいるだろう。
だが俺だって、大切な物に背を向けたばかりだ。親に苦労をかけ、それを返すこともせず、話し合いもせず一方的に責任放棄することを告げた。
でも、この三日間でわかったこともある。逃げることだって必要だし、距離を取ることでわかることもある。あまり拘らないことで開ける道もある。
第一、人の弱さの具現みたいな俺が、当時の父さんの臆する気持ちを責められるはずがないだろう。
「好きだったんだ、高崎のことが」
「そう」
「下田との付き合いなんていつまでも続くものじゃないと思っていた。だから、別れた後に……」
「そう」
俺は父さんの横をすり抜ける。
「でも、父さんの手に負える女じゃなかったと思うよ」
俺はその相手に、言ってやりたいことがある。そして、俺だから言ってやれることがある。
◇
ピアノの前に立った。最後のコンクールから約二週間、こんなに長い間触らなかったのは初めてだ。
鍵盤の蓋を開け、椅子に座る。ポロポロと弾いて指を慣らしていく。指が覚えている簡単なバーナムの練習曲を弾くうちに、感覚が戻ってきた。十八年は伊達じゃなかった。
「聞かせてくれるの?」
幽霊さんが隣に立つ。
「ああ。聞かせてやるよ」
胸にひりついた、間違えてはならない強迫観念はある。大きく息をついた。のしかかるプレッシャーを、これはコンクールじゃないと言い聞かせて溶かしていく。幸い、肩は軽くなった。
「聞かせたい曲ができたんだ。でも、その前に話をしよう」
指は鍵盤を押さえ、ウォームアップをしていく。そのリズムに乗せるように言う。
「幽霊さんがこうなるように、俺を導いたんじゃないのか」
市川さん、仁山さん、三葉さん、父さん、そして俺と幽霊さんにまつわるこの三日間の出来事。今となれば、父さん以外の誰かの意思を感じずにはいられない。
「わかんないよ。私にそんなことができるのかなんて」
「死ぬの、初めてだもんな」
確認のつもりで聞く。
「言っていたよな。昔の友達になんて、運が良くないと会えないって。じゃあ、その友達と、四人も再会できたのは、まあ、必然だと言われた方が納得できる。ずっと幽霊さんと呼んできたけど、あんたが高崎ひろみなんだろ」
幽霊さんに目を遣った。鍵盤なんて、見る必要はない。
「やっぱり、わかるよね」
わからない方がおかしい。高崎ひろみの外見的、内面的特徴と合っているし、何よりも、話題の主とそっくりな幽霊が俺に憑いているなんて偶然があるわけない。最初から、何者かに誘導されていたと思う方が自然だ。俺も父さんも、高崎さんに誘われた。
その目的は、きっとこの世に別れを告げるため。この三日間全体が、彼女に必要なことだったため。
「聞かせてくれ。どうして自殺したのか、そして、どうして酒を飲んでいたのか」
高崎さんは、唇の片方で笑った。意地が悪い聞き方をしてしまったが、今は誤魔化されたくなかった。
本当はわかっているんじゃないの。そう言ってから、高崎さんは切り出した。
大事な、とても大事な話があります。
そう言って先生を呼び出した。いつものように車で拾ってもらって、高校から離れたエリアのラブホに入る。コンビニで買った食べ物やお酒を含む飲み物を持ち込んで、高崎たちは腰を落ち着けた。
「大事な話って何だ」
先生はビールのプルタブを開けた。大人はお酒が無いと真面目な話ができないんだと、付き合い始めの頃に言っていたことを思い出す。
多分、別れ話を想像しているんだろうな。でも違う。
「妊娠しました」
そのときの下田の動揺した顔は見ものだった。青くなって、動きが固まって、ビールを一口飲み、ふむ、だなんて言って平静を装って目を逸らした。
「それは、生理が来ないって意味か」
「ううん。妊娠検査薬で三回試して三回とも陽性だった」
避妊はしていたつもりだった。正直、どのタイミングで妊娠したのかわからない。でも、検査結果は何度確認しても、読み間違いを疑って何度調べても、妊娠していることを示していた。
「私もお酒、飲んでいい?」
下田の顔を窺う。一瞬だけこちらを見て、気のない風に言った。
「ああ、いいぞ」
その日は、すぐに解散した。甘い空気にはなりようがなかった。
その後、私は命を絶つ。
「どうしようも、なかったんだ。私に育てる術はなかったし、堕胎するのも違う気がした」
「下田は、飲酒を止めなかったのか」
妊娠中の飲酒が胎児に悪影響を与えることなんて、常識だろうに。
高崎さんが妊娠していたという仮説が立てば、飲酒の意味合いが変わってくる。二人の間に起こったことはだいたい想像通りだった。
「止められなかったよ。だからわかった。私は先生の迷惑になっちゃったんだって。堕胎するとなったら、父親が誰なのか詮索される。そうなれば、先生に迷惑がかかっちゃうでしょ。岩瀬君、君のお父さんにその役を負わせるわけにもいかなかったしね」
「下田は、流産を望んだ」
「心から望んでいたのかはわからない。でも、どちらかといえば、望んでいたと思う」
ピアノを弾く手は止めていた。
妊娠したことを単純に喜ばしいことだとは、もう俺には言えなかった。教育の失敗例みたいな俺には。
「だから帰り道、家の近くで降ろしてもらって、道路に飛び出した」
高崎ひろみ。交通事故死。しかし、本人にとって、それは自殺だった。
俺は笑う。
「最悪の当てつけだ」
「三葉が言っていたでしょ。私は最悪の女だって」
「たしかに」
自分の体をフルに使う、だったか。
「でも、もう二十五年だろ。いい加減、成仏していいと思うんだよな」
高崎ひろみは困ったように頭を掻いた。
「それはそうなんだけど、別に先生を恨む気持ちなんて無いんだよね。成仏できない理由は何なんだろう」
「あんたを待っている人がいたからだ」
鍵盤に指を落とす。訥々と、短調のリズムを刻む。
「言っていたね。私が誰かの未練になっているかもしれないって。心当たりがあるの?」
曲は強くなり、弱くなり、また訥々と鳴らされていく。
「どうして俺が、あんたが死んだ場所をわかったと思う? どうして、妊娠していたなんて発想の飛躍ができたと思う?」
煙草の煙を嫌がったから妊娠していたと思った、というのは嘘だ。それだけで決めつけられるわけがない。
「どうして?」
「高崎さんに憑かれる何日か前、あの交差点、高崎さんが亡くなった交差点で、子供らしきモノを拾った。正確には、胎児の幽霊に憑かれた。多分、高崎さんのお腹の中にいた子だ。彼らも幽霊になることはある」
「私の、子供?」
「俺たちの繋がり方、変だっただろ。妙な糸で絡まってさ。それは、高崎さんと俺じゃなくて、高崎さんと、俺に憑いた我が子が繋がっていたのさ。そう考えれば辻褄が合う」
俺の脳内で全てを察するきっかけになったのは、交差点で拾った胎児のことだった。幽霊さんが高崎ひろみであること。煙草の副流煙を嫌ったこと、そして奇妙な憑かれ方をしたこと。点と点が繋がり、連鎖的に全てが理解できた。
曲は強くなっていく。それに並行して、俺の両肩が軽くなっていくのがわかった。
一曲終わり、ややアップテンポな曲に変わる。
「自分の一部みたいなものだろ。それがなかったから成仏できなかったんじゃないか」
事故、あるいは自殺によって、高崎さんと胎児はバラバラに幽霊になった。高崎さんの魂はその場を離れて彷徨ったが、胎児は事故現場に留まった。
高崎さんが俺に憑いたのは偶然なんかじゃなくて、探し合っていた自分の一部が引き合ったからだ。
俺の背中から糸が外れ、丸まった、人間の形にすらなっていない命の欠片が高崎ひろみの下腹部に入っていく。
彼女は泣いていた。
「これ、何て曲?」
「何曲かに分かれているけど、モーツァルトのレクイエム。鎮魂歌って意味だ」
喋りながら弾いて披露するなんて、普段ならば絶対しない。でも、彼女は間違えても許してくれるそうだから。
「死者を弔う曲だよ」
「素敵なピアノだね」
また曲が変わり、今度は力強く、叩きつけるように弾く。その名もモーツァルトのレクイエム『怒りの日』。
強く弾くのは、得意なんだ。
「送ってやるよ。あっちまで」
遠くへ、より遠くへ届くように力を込める。泣きそうになりながら、俺の想いごと、あの世へ彼女を送り届けられるように。
俺はもう、ピアノを苦しいものだと思うことはないだろう。高崎さんと交わした言葉、この三日間で見聞きしたこと、それら全てが俺を少しずつ変えてくれた。
人なんて不完全で、失敗したってそれが普通で、それでも、できることを精一杯やるしかない。その結末が最悪のものだったとしても、高崎さんに悲壮感はなかった。
この世に正解なんてない。人生の最後が納得できたならそれは幸せな人生だし、自殺だって間違っていない。俺の目に映る景色は、クリアで、広くて、無数の道が今なら見える。
ピアノも、上手いか下手かなんてどうでもよかった。本当は違うのだ。想いを伝える道具だったのだ。
感謝もある。俺の価値観がいかに狭いものだったかわかったし、それを柔らかに受け止められた。最悪の女、高崎さんを、嫌悪することなくこうして送り出せる自分は、意外と器が広いのだということもわかった。
レクイエムは悲しい曲だ。でも、俺の頬は緩んでいた。ピアノが楽しい。高崎さんに想いを伝えられることが嬉しい。
やがて『怒りの日』を弾き終えたとき、高崎さんと胎児の気配は消えていた。俺はうなだれるように息を吐き、鍵盤の蓋を閉める。
俺のピアノは、今日のためにあった。
大きく伸びをして鍵盤に蓋をし、俺は小さな防音室を後にする。
今度は、俺の人生を拾いに行こう。
噓作りのスタンプラリー 佐伯僚佑 @SaeQ
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます