9

「まぁとりあえずこれで蟠りは無しって事でいいか?」

「うん。もちろん。――あっ、そーだ。じゃあ一緒帰らない?」

「分かった。鞄取って来る」


 それから夏樹との間にあった妙な気まずさは消えてなくなり、また少しだけ心が軽く楽になった。そして週末には約束通りディーランドへ行き夏樹も含め五人で楽しい時間を過ごした。こうして笑い合って遊ぶのは久しぶりだ。少し前までは自分の事で精一杯で、勝手に追い詰められてて。だけどそれも幾分か良くなったのを感じる。

 でも全てが解決した訳じゃない。未だそこには混沌とした感情が渦巻いていて時折、熱を帯びるようにじわり広がる。確かに俺は燈さんが言う通り、決別し完全に諦められてはいないんだろう。その証拠にふと思い出しては溜息を零し、忘れる事が出来ない。楽しかったという記憶と辛苦の記憶は俺を揺さぶるようだ。

 遅かれ早かれこの感情に対して――絵に対して決断をしないといけない。また苦しくて黯く、先の見えない中へ身を投じるのか。それとももうその場を立ち去るのか。でも今の俺にはその判断をする方法が分からなかった。どうすればいいのか。どうしたいのか。自分の事でありながら分からない。

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