第5話
(孤独死モアルノネ、ワタシコソ気ヲツケナキャ)女は特殊景品を窓口から受け取った。「ぎゃはは、まじでおまえ、七万円も投じたの、ばかじゃねぇぇの、途中でやめろよ」「むりっしょ、途中でひけるわけねぇぇじゃん」(マア、七万円モ使ッタノ、モッタイナイ)「めちゃめちゃついてねぇぇなぁぁ、おまえだけ、このまま直帰だな」「はあぁ、なんでだよ、そんなに勝ってんだから、すこしぐらいおごれよ」「やだよ、おめぇぇにおごったら、あとあと響きそうじゃん」、女は顔をぼやかすガラスに数人が入り交じるのを見ながら十六万円の札を勘定した(若イ男ノ子ノ声ナノニ、ワタシノ給料ノ二倍モ一日デ)。「そういや、今日は集会らしいじゃん、おまえ単車の整備はしたか」「ああ、とっくよ」「出るんだろ」「そりゃ、走りでもしないと、やってらんねぇぇよ」「おまえ、どんなマスクをつけるんだ」「考えてねぇぇよ」瞬間、女の脳裏にカラスの嘴が飛んだ。
娘は一度だけ悪い道に逸れようとした。あれは中学生の時だった。体育会系の部活に励む真面目な子だったが、三年生の夏が過ぎると、ボブカットの髪の毛が伸ばされる前に金色になった。その早さは計画通りでもあり、周囲につられての即効性のようでもあり、頭髪が明るくなったと思ったら次いで唇も爪の色も塗り変わってしまった。蕾が一夜にして花咲く待ったなしのメタモルフォーゼに似ていて、色の花弁が開かれたら同時に芳香を放つように、化粧と香水が戸建ての部屋部屋に蔓を伸ばして香り渡った。これはおかしい、と思う前に、これはまずいと危機に瀕したが、部活動に専念してきたエネルギーがそのまま頂芽に届いて伸びるよりも、摘心によって力の向きを変えられた成長の行き先は部活動の成績が証明するように並の動力ではなく、脇芽が一気に吹いて伸び、早いからこそ枯れやすい、深みがないからこそ華やかで可憐な花をみせてしまった。
今までこれといって叱ることのなかった頑張り屋さんがどうして。生まれ育ってきた若い実績がそう思わせたのは当然で、それがあるからこその猶予が目先の叱りつけを押さえていたのだが、悪い芽は早早と摘み取らないとすぐに伸びきることをみせられた。
娘は夏の大会の終了日から一週間と経たずに夜の帰りが遅くなった。今までは門限を決めずも夕食の時間か、部活で遅くなっても二十時には帰宅していたので、上出来と信用が規律のいらない自由を勝ち得て任せきっていたが、それらが悪用されるとなると、やはり躾という矯正が加わることになる。しかし今まで叱ったことがほとんどなかったので、思春期の重要な局面となるとどのように手出ししていいのかわからなかった。仕事帰りに飲んで帰るのが日常となっていた父親に相談すると、「そうかそうか、あいつもようやく社会勉強を始めたんだな」様変わりした様子に喜んで、「じゃあ、もう隠れて酒も飲んだことだろう、近いうち飲みにでもつれていってやろうか」期待とはまるで異なる事を言うので、普段から娘の教育にまったく関与せずあてにはしていなかったが、まるで的を得ない事を言うのでほとほと困ってしまった。
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