第12話

その夜に見た夢は、とても奇妙なものだった。

 僕は水の中に棲んでいる生き物で、同じような仲間たちと、魚や山の幸を採って暮らしていた。集落のようなものを形成しているようで、そのはずれに祠があった。採ったものは、時折その祠に奉納していた。僕自身は、その祠を世話している立場らしく、その周りの草を抜いたり、時には花を生けたりしているうちに、その祠の主と話すようになっていた。その言葉は不明瞭で、よく分からなかったが、その主とは良好な関係を築いているようだった。

 僕たちの集落のそばには、普通の人間が住む集落もあって、長い間、その土地を共有していた。この土地は祠の主のおかげで水の流れがよく、作物もよく育っていた。

 長い時間が経って、人間の集落で争いがあった。隣の土地に住む人間が、水脈の整った土地を奪おうと襲ってきたのだ。僕たちは土地を共有する人間に加勢した。襲ってきた人間たちは、祠を狙ってきたのだった。そこだけは守らなくては。必死に人間を押さえ込み、やめさせようと声を張ったが、届かなかった。

 祠は壊されてしまった。

 主は怒り狂い、辺り一面を流した。建物も、道具も、襲ってきた人間たちも、僕たちもみんな。

 幸いにも泳ぎに長けていた僕たちは、できるだけ人間たちを助けて回った。だが土地の水脈はめちゃくちゃになってしまった。僕たちも人間も、同じ土地には住むことができなくなった。できることならもう一度、祠を立てて主を呼ぼうと僕は仲間に主張したが、それは無理だと誰もが首をふった。あれほどに整った土地は二つと無かったのだ。例え僕たちが次の土地を見つけて、そこに根付いたとしても、主は来ることができないだろう。その証拠に、主の居所は長い間見つからなかった。

 どこかで彷徨っているのだろうか。傷付いてしまったのだろうか。主のことが気がかりで、仲間に無理を言って、僕は辺りを探した。主がいられる場所は限られるだろうことは知っていた。山の中深くを歩いて行き、僕たちの集落に流れていた川の源流を探した。

 深い谷の奥底、小さな湧水の中に、傷ついた主がいた。

 消え入りそうな主に、僕は迷うことなく、自分の力の全てを差し出した。

 どうか、この土地を、末長く守ってほしい。あなたが生きていくために、僕の力は少ないかもしれない。それでも、今のあなたの傷を癒すために、僕の力を使ってほしい。

 主は頑として、力を受け取ろうとしなかった。それならば自分が消えると言った。だが僕はどうしてもと言って、無理やり力を渡した。

 主の美しい姿が、艶やかな瞳が、少しでも長く存在できるように。そして、僕が愛した仲間の土地が、長く在りますように。

 強く願い続けながら、僕は消えていった。

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