第9話

 それから2ヶ月、教授からはほとんど連絡がなかった。きっと方々を調べてくれているのだろうと思って、僕から連絡を取ってみたが「気持ちはありがたいが、それより、もうすぐ試験だろう。学業の方を優先したまえ」と一方的に通話を切られてしまった。そう言われては、何も言い返せない。研究室にも教授の姿はなく、居場所は全く分からなかった。

 授業を受け、たまに在宅バイトをして、日々の生活を粛々とこなす。今までと変わらない日々。

 ——時々、貘の姿を思い出す。淡く光っていた、小さくて大きな生き物の姿と、杖を操る教授。憧れていた世界がすぐそばにあった。この学校に来たことは間違いじゃなかったと確信した。だからこそ、教授からの連絡が途絶えたことは、その世界との断絶を意味しているように思えた。

 強くなる日差しに対して、僕の心は下降し続けた。それでも大学へ通ったのは「金がかかっているのだから」という程度の考えでしかなかった。

 やっとの思いでベッドから抜け出し、前期課程の集大成たる試験を全てクリアしたその日、周りがバイトだ帰省だバカンスだと盛り上がる中、ポケットに入れていた携帯端末が鳴った。

『来週水曜日に東京駅で。一泊する。運転免許を忘れないように』

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