カバンを持って部屋を出て行こうとするディミトリーの手首を掴んで、グイと引き寄せると、俺は勢いに任せてディミトリーに口付けた。ガシャ、と大きな音を立てて、ディミトリーの鞄が手から落ちる。

 力の抜けたディミトリーの骨張った手首から手を離す。手首は力一杯掴んだため、少し赤くなっていた。

 俺は唇を離し、キッとディミトリーを睨む。ディミトリーは呆気にとられて、ただ俺を見つめた。


「何でオレの答えも聞かず、オレから去ろうとすんだよ!!

オレだって、ディミトリーといたらいつも楽しかった!会えない日は、お前のことばっか考えてた!いつも、俺のこと考えてくれるお前が、俺も好きだよ!誰より、好きだ!!」


 一気にまくしたて酸欠になり、はぁ、はぁ、と肩で息をする。見つめあったまま、お互いしばらく動けずにいた。そして、ディミトリーが涙を一粒こぼし、俺に抱きついた。


「……っありがとう」


俺も、ディミトリーを抱きしめ返す。微かな汗の匂いと、嗅ぎ慣れた落ち着くディミトリーの匂いが俺の心を満たした。




 夕日の中を、2人、駅に向かって歩く。


「ディミトリーは、その、いつからオレのこと好きだったんだよ……」


なんだか恥ずかしくて慣れなくて、声がぶっきらぼうになってしまう。


「うーん、たぶん、初めて見た日から」


「え!?あの教室で会った日?」


「ううん、実習室で見かけたときから。

心が折れそうなとき、いつも実習室にいって、マルクが必死でやってんの見て元気もらってたんだ」


「げ、ストーカーかよ」


ほんとは嬉しいのに、つい悪態をついてしまう。


「あはは、ほんとにそうかも。

マルクがいたから、僕はここまで頑張れたんだよ」


恥ずかしげもなく言ってのけるディミトリーに、思わず赤面してしまう。今が夕焼け空でよかったと心底思う。


「オレも、頑張ってるディミトリーがいたから、こんな頑張れたんだよ」


ボソリと呟き、ふい、と目を逸らす。


「ぷ、その照れると目を逸らすクセ、お父さんそっくりだよね」


「うるせ」


そう言ってから、確かにそうかも、と思わず笑ってしまう。

 ディミトリーがキョロキョロして、人がいないのを確認してからちゅ、とオレに口付ける。真っ赤になっていると、「マルクがあんまり可愛いから」と、ディミトリーも赤くなる。

 可愛いのはそっちだ、と、仕返しのキスをして、オレたちはまた2人、夕日の道を歩き始めた。

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YOU & I あおい @aoimam

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