⑧
ショーの片付けが終わる頃には、日も傾き始めていた。
すっかり遅くなってしまった。
ディミトリーはもう来ているだろうか。
途中自販機で、お礼がわりにディミトリーの好きなコーヒーと、俺用にジュースを買って教室に向かう。走ると、ガシャガシャとメイク道具が賑やかに音を立てる。肩に食い込むカバンを背負い直して、オレは再び走って教室を目指した。
部屋につくと、ディミトリーがもう教室で1人座っていた。初めて会った日もこんな夕方だったな、と思い出し懐かしくなる。
「あ、お疲れさま」
「わり、待ったか?」
「ううん、僕もさっき来たとこ」
いつもの席に座り、ディミトリーにコーヒーを差し出す。ありがとう、と受け取るディミトリーに、さっきのお礼、とぶっきらぼうに言う。ディミトリーはクスクス笑って、美味しそうにコーヒーを一口飲んだ。俺もジュースの蓋を開けて、一口飲む。
「で、話って何?」
ディミトリーが緊張するのがわかった。普段おっとりしていて、何にも動じない彼には珍しい。
「あの、ね。驚かずに聞いて」
「う、うん」
思わず俺まで緊張して、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「僕は、マルクのこと、好き、なんだ」
「好きって……。え?」
予想だにしていなかった言葉に頭が真っ白になる。
ディミトリーは真剣な顔で続けた。
「あっ、でも、恋人同士になりたいとか、そんなんじゃないから。
ただ、今回一緒にやってきて、気持ちが大きくなって、友達としてはもういられないと思った。
次、一緒にできない本当の理由も、これなんだ。あのとき言えなくて、ごめん。
ショーの前にギクシャクするの嫌だったから、言い出せなかった……」
ディミトリーの顔を見ると、本当に悲しそうな顔をしている。
「こんな気持ちで、マルクとはいれない。
だから、今までありがとう。すごく楽しかった」
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