⑥
あっと言う間に日は過ぎて、本番当日の朝。
学校にいつもより早く来て、ショーの行われる体育館へと急ぐ。準備は万端にしてきた。
ディミトリーはドレスを、約束通りオレの休校中に仕上げ、残りの1週間は、モデルを交えてのリハーサルなどが行われた。
楽しかった。今日で最後かと思うと、少し寂しい気がした。もっとやってたかった。ディミトリーと一緒に無言で作業するのも、休憩しながらくだらないことをしゃべるのも、真剣に言い合うのも、全部、全部楽しかった。
目頭が熱くなって、慌てて目を擦る。まだ、終わってない。
本番は絶対に失敗できない。
絶対に、成功させてやる。
思い切り走って、待ち合わせ場所の控え室へ全速力で向かう。
部屋に入ると、ディミトリーがもう来ていた。
「はよ」
「おはよう。走ってきたの?」
息切れしてるオレに、ディミトリーが笑って水を差し出してくれる。
「サンキュ」
ゴクゴクと一気に飲むと、胸がスッキリとした。
今日の出番は3番目。モデルが到着したら、余裕を持ってメイクが始められるからありがたい。
早速メイク道具を出し、コテなどのヘアメイクの準備を始める。
「マイク」
椅子に座ってケータイをいじっていたディミトリーにふいに呼ばれる。
「ん?何?」
「今日はよろしくね」
改まって言われて、少し照れてしまう。
「おう、よろしく」
作業をやめて顔を上げると、ディミトリーの顔がすごく真剣で、なんとなく体ごとディミトリーに向き直る。
「どした?」
「今日終わったらさ、時間、あるかな?」
「おう。別に何もないけど……」
ショーの打ち上げは、明日早朝からバイト先の美容院の研修があるから、断った。
「ちょっと、話したいことがあって。いいかな?」
寂しい顔の訳を、話してくれるのかもしれない。直感でそう思った。
「おう。じゃ、いつもの部屋でい?」
いつもの部屋とは、いつも作業してた教室のことだ。
「うん」
「じゃ、片付け終わったらいつもな部屋集合な」
ディミトリーがうなずいたそのとき、ガヤガヤとモデルたちが一斉に部屋に入ってきた。
やっと、本格的に準備ができる。
「よし、やるぞ!」
「うん!」
2人で顔を見合わせて、俺たちはどちらからともなくハイタッチをした。
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