なんとなく今は沈黙が嫌で話題を変える。


「ディミトリーは就職どうすんの?

どっかのメーカーに入るのか?」


「うん。そのつもり。

大きいとこで修行つんで、いつか自分の店を持つのが僕の夢だから」


「あはは。まったく一緒。オレも、小さくてもいいから、いつか自分の店を持ちたい」


ディミトリーが嬉しそうに笑う。


「お互い、頑張ろうね」


「おう!

ディミトリーは、親とかそういうの賛成してくれてんの?」


「んー、どうだろう。

うちは父さんはミュージシャンで、母さんも店やってて、それぞれ好きなことやってるから、お前も好きにしなさいって感じかな」


「へー。いいな。

俺んとこはみんな医者の家系で、オレはいつも除け者だからさ」


「え?でも大学好きなところ行かせてくれたんだよね?」


「中高、オレすっげー荒れてたから、とりあえず大学に入ってさえくれればいい、みたいな気持ちだったんじゃね?

諦められてんだよ、オレは」


 初めて、誰かにこんな家族のことを喋った。なぜかディミトリーには、知って欲しいと思った。こんな格好悪いところも、きっとこいつは茶化したり、同情したりせず、聞いてくれるから。


「ショー、家族に来て貰えば、マルクがどれだけ頑張ってるか伝わるんじゃないかな?」


ポツリとディミトリーが言う。


「え?」


「真剣なマルクを見たら、きっとわかってくれると僕は思うよ。

それぐらいマルクは頑張ってるから」


 ぐっと身をのりだして真剣な眼差しで言われ、思わず涙が出そうになって、オレは慌てて顔を背けた。


「……どうかな。今まで散々落胆させてきたからな。ま、どっちにしても、オレはオレのやりたいようにやるからいいんだよ」


 誤魔化して笑うオレを見て、ディミトリーはそれ以上何も言わなかった。



「さぁ、そろそろ帰ってドレスの続きやろうかな」


 ディミトリーがご馳走様、と立ち上がる。


「あっわり。忙しいのに長く引き留めちまって」


「ううん。なんか、毎日一緒にいたから、喋れないとやっぱ寂しいんだよね」


「あはは、確かに。

恋人かってくらい、授業以外は一緒だったもんな」


 ディミトリーが、またさっきの寂しそうな顔になる。すぐにいつもの顔に戻って、「そうだね」と言ったけど、オレは見逃さなかった。


「ディミトリー、何かあるなら、なんでも言えよ。オレばっか、話聞いてもらってたんじゃ、割に合わねぇだろ?」


 ディミトリーが一瞬ビックリした顔になる。それから「うん。ありがとう」と言って笑った。


「じゃあ、月曜日学校でね」


「おう」


 玄関まで2人で行き、手を上げてヒラヒラとふりディミトリーを見送る。

 ディミトリー、結局何も言ってくれなかったな。しかも、月曜まで会えないのか。

 寂しいと思ってしまい、寂しいってなんだよ!と、慌てて打ち消す。恋人じゃあるまいし。だいたいオレら、男同士だし。

 そういや、ディミトリーって彼女いるのかな?いや、あんだけオレと一緒にいてもまったく気配ないし、いないか。

オレも中、高はそれなりにいたけど、大学に行ってからは、勉強に専念したくてずっといなかった。

 ディミトリーも似た感じかな?よく見りゃいい男だし、オシャレで優しいし、背も高いし、モテそうだよな……。

 そこまで考えて、ディミトリーのことばっか考えてる自分に気づき、慌てて頭を振る。


やべ。さ、練習の続きやろ。


 今は、ショーのことだけを考えよう。

俺は腕まくりして気合を入れ直すと、またヘアアレンジの練習に戻った。

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