⑤
なんとなく今は沈黙が嫌で話題を変える。
「ディミトリーは就職どうすんの?
どっかのメーカーに入るのか?」
「うん。そのつもり。
大きいとこで修行つんで、いつか自分の店を持つのが僕の夢だから」
「あはは。まったく一緒。オレも、小さくてもいいから、いつか自分の店を持ちたい」
ディミトリーが嬉しそうに笑う。
「お互い、頑張ろうね」
「おう!
ディミトリーは、親とかそういうの賛成してくれてんの?」
「んー、どうだろう。
うちは父さんはミュージシャンで、母さんも店やってて、それぞれ好きなことやってるから、お前も好きにしなさいって感じかな」
「へー。いいな。
俺んとこはみんな医者の家系で、オレはいつも除け者だからさ」
「え?でも大学好きなところ行かせてくれたんだよね?」
「中高、オレすっげー荒れてたから、とりあえず大学に入ってさえくれればいい、みたいな気持ちだったんじゃね?
諦められてんだよ、オレは」
初めて、誰かにこんな家族のことを喋った。なぜかディミトリーには、知って欲しいと思った。こんな格好悪いところも、きっとこいつは茶化したり、同情したりせず、聞いてくれるから。
「ショー、家族に来て貰えば、マルクがどれだけ頑張ってるか伝わるんじゃないかな?」
ポツリとディミトリーが言う。
「え?」
「真剣なマルクを見たら、きっとわかってくれると僕は思うよ。
それぐらいマルクは頑張ってるから」
ぐっと身をのりだして真剣な眼差しで言われ、思わず涙が出そうになって、オレは慌てて顔を背けた。
「……どうかな。今まで散々落胆させてきたからな。ま、どっちにしても、オレはオレのやりたいようにやるからいいんだよ」
誤魔化して笑うオレを見て、ディミトリーはそれ以上何も言わなかった。
「さぁ、そろそろ帰ってドレスの続きやろうかな」
ディミトリーがご馳走様、と立ち上がる。
「あっわり。忙しいのに長く引き留めちまって」
「ううん。なんか、毎日一緒にいたから、喋れないとやっぱ寂しいんだよね」
「あはは、確かに。
恋人かってくらい、授業以外は一緒だったもんな」
ディミトリーが、またさっきの寂しそうな顔になる。すぐにいつもの顔に戻って、「そうだね」と言ったけど、オレは見逃さなかった。
「ディミトリー、何かあるなら、なんでも言えよ。オレばっか、話聞いてもらってたんじゃ、割に合わねぇだろ?」
ディミトリーが一瞬ビックリした顔になる。それから「うん。ありがとう」と言って笑った。
「じゃあ、月曜日学校でね」
「おう」
玄関まで2人で行き、手を上げてヒラヒラとふりディミトリーを見送る。
ディミトリー、結局何も言ってくれなかったな。しかも、月曜まで会えないのか。
寂しいと思ってしまい、寂しいってなんだよ!と、慌てて打ち消す。恋人じゃあるまいし。だいたいオレら、男同士だし。
そういや、ディミトリーって彼女いるのかな?いや、あんだけオレと一緒にいてもまったく気配ないし、いないか。
オレも中、高はそれなりにいたけど、大学に行ってからは、勉強に専念したくてずっといなかった。
ディミトリーも似た感じかな?よく見りゃいい男だし、オシャレで優しいし、背も高いし、モテそうだよな……。
そこまで考えて、ディミトリーのことばっか考えてる自分に気づき、慌てて頭を振る。
やべ。さ、練習の続きやろ。
今は、ショーのことだけを考えよう。
俺は腕まくりして気合を入れ直すと、またヘアアレンジの練習に戻った。
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