③
保健室に先生がいなかったので、ディミトリーが代わりに消毒をしてくれる。
男たちは、騒ぎを聞きつけた先生たちによって捕らえられ、事情を聞くため大学の事務所に連れて行かれた。どうも、ディミトリーに昨年ショーで負けた逆恨みだったらしい。2人は休学処分、オレも暴力を振るったため、ディミトリーが庇ってくれたが、1週間の自宅謹慎となった。
ムスッと無言でいるオレに、ディミトリーが「マルク、さっきはありがとう」といつもの穏やかな顔で笑う。
「っなんで怒んねんだよ。あんなことされたのに!」
思い出して、またむかっ腹がたってくる。
「だって、マルクが僕の代わりに怒ってくれたじゃない。
僕はそれで十分だよ」
「っ……」
そう言われるとそれ以上何も言えなくて、オレは黙ってしまった。
「手、たいしたことなくて良かったよ」
消毒液を直しながらディミトリーが言う。
「……謹慎になっちまって、ごめん」
ショーまで2週間。1週間も時間を無駄にしてしまう。
「なんでマルクが謝るの。
僕こそごめん。こんなことに巻き込んじゃって。
大丈夫、もうほとんど完成してるでしょ。
1週間でドレス仕上げとくから、謹慎明け、最後の詰め頑張ろう」
ディミトリーにとったら、一生懸命作ったドレスを破られることも、『こんなこと』かよ。
ほんとこいつ、すげーやつ。
「おう」
ディミトリーと組めた幸運に、オレは普段はまったく祈らない神様に心から感謝した。
家に帰ると、すごい形相の父が待っていた。
オレの家は代々名門の医者の家系で、父も母も、兄も医者。美容の道に進んだオレは、家の中では異端だった。
バシっと大きな音がするぐらい強く頬を殴られて、体が床に叩きつけられる。
「どれだけ親の顔に泥塗ったら気が済むんだ、お前は!!」
学校で暴力沙汰起こしゃ、ま、そうなるわな。
「……すみませんでした」
オレは起き上がると、父親の顔も見ずに自分の部屋へと向かった。
父親とは、美容師になると打ち明けてから、まともに会話もしていなかった。医者にならないオレなんて、父親にとってはクズみたいなものだろう。学校に通う金を出してくれているだけでも感謝しなくては、とそう思ってきた。だから、今度開催されるショーのことも、家族には一切言ってなかったし、言う気もさらさらなかった。
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