保健室に先生がいなかったので、ディミトリーが代わりに消毒をしてくれる。

 男たちは、騒ぎを聞きつけた先生たちによって捕らえられ、事情を聞くため大学の事務所に連れて行かれた。どうも、ディミトリーに昨年ショーで負けた逆恨みだったらしい。2人は休学処分、オレも暴力を振るったため、ディミトリーが庇ってくれたが、1週間の自宅謹慎となった。

 ムスッと無言でいるオレに、ディミトリーが「マルク、さっきはありがとう」といつもの穏やかな顔で笑う。


「っなんで怒んねんだよ。あんなことされたのに!」


 思い出して、またむかっ腹がたってくる。


「だって、マルクが僕の代わりに怒ってくれたじゃない。

僕はそれで十分だよ」


「っ……」


そう言われるとそれ以上何も言えなくて、オレは黙ってしまった。


「手、たいしたことなくて良かったよ」


 消毒液を直しながらディミトリーが言う。


「……謹慎になっちまって、ごめん」


 ショーまで2週間。1週間も時間を無駄にしてしまう。


「なんでマルクが謝るの。

僕こそごめん。こんなことに巻き込んじゃって。

大丈夫、もうほとんど完成してるでしょ。

1週間でドレス仕上げとくから、謹慎明け、最後の詰め頑張ろう」


 ディミトリーにとったら、一生懸命作ったドレスを破られることも、『こんなこと』かよ。

ほんとこいつ、すげーやつ。


「おう」


ディミトリーと組めた幸運に、オレは普段はまったく祈らない神様に心から感謝した。



 家に帰ると、すごい形相の父が待っていた。

 オレの家は代々名門の医者の家系で、父も母も、兄も医者。美容の道に進んだオレは、家の中では異端だった。

 バシっと大きな音がするぐらい強く頬を殴られて、体が床に叩きつけられる。


「どれだけ親の顔に泥塗ったら気が済むんだ、お前は!!」


 学校で暴力沙汰起こしゃ、ま、そうなるわな。


「……すみませんでした」


 オレは起き上がると、父親の顔も見ずに自分の部屋へと向かった。

 父親とは、美容師になると打ち明けてから、まともに会話もしていなかった。医者にならないオレなんて、父親にとってはクズみたいなものだろう。学校に通う金を出してくれているだけでも感謝しなくては、とそう思ってきた。だから、今度開催されるショーのことも、家族には一切言ってなかったし、言う気もさらさらなかった。

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