わしら以外みんなバカ

ちびまるフォイ

正しいリーダー

それは今から100年くらい前のこと。


入試でなんとか希望校に入るため学生は神に祈った。


「神よ! 私以外のすべての高校生をバカにしてください!」


神はどうやら学生よりもバカだったらしくこの願いを受け入れ、

見事にすべての高校生は頭がバカになって、学生は見事に合格した。


それから100年後の今になっても高校生になるとバカになる呪いは未だに人類を苦しみ続けていた。


発端となった学生も死んでしまった現在。

会議場へと賢者たちはまた呼び出された。


「……まったく、また会議か。家の盆栽の手入れがあるというのに」


「老後の趣味がない人は会議を理由に誰かとしゃべりたいんじゃよ」


「議長なんかこないだコンビニ店員にからんでおったぞ」


「おお怖い。わしらも気をつけんと、高校生のようにバカになってしまうな」


会議場は病院の待合室のようににぎわっていた。

議長が入ってくると会議をはじめる。


「今回の議題は減る気配もない犯罪についてじゃ」


「ああ、どうせ頭の悪い高校生どもがしてるんじゃろう」


「いまや人間は高校生をピークに急速にバカになる。

 わしら年配者がめんどうを見なくちゃいけないからのぅ」



「いやちがう。犯罪の多くは年配の人間なのが問題だというのが今回の議題じゃ」


居眠りしかけていた有識者たちは各々の鼻ちょうちんを割った。


「え……なななな、なにかの間違いじゃないのかの」


「なんで賢いわしら老賢者が犯罪なんて……」


「きゅ、急に体調が悪くなった……ちょっと救急車呼んでくれんか……」


急に焦り始めた年配者たちにはそれぞれに心当たりがあった。


なにせすべての若者は呪いのせいで自動的にバカになる。

たやすく騙せるので、肉体労働から性犯罪まで簡単にいいなりそのもの。

すべては老賢者の手のひらのうえなのだ。


けれどそんな裏事情を話せるわけもなく、

年配者たちは脂汗を滝のように流しながらももっともらしい答弁を続けた。


「いやぁ、悪い奴らがいるもんじゃなぁ。わしは全然ガキどもを働かせたりしとらんけどな!」


「とっ、当然わしもじゃよ。ぴちぴちぎゃるを家に何人も抱えてたりせんぞ」


思い思いの言い訳ショーをしていたが議長が話を遮った。


「若者との知識の差を悪用した卑劣な犯罪を私は許せない。

 そして、今はシルバー科学研究所のほうで解決に向かう薬を作っている」


「くすり……? 関節痛にきくとか……?」


「高校生になるとバカになる病気を治す薬じゃ。

 これを使えば昔のように若者が活躍できる世界に戻れるのじゃ!」


「なんじゃとぉ!?」


「どうした? どうしてそんな嫌そうな顔をしている……?」


「若者の知恵をもとに戻したら、今よりもっと危険になるぞ!

 わしら高齢者を食い物にした詐欺が横行し、そこらで暴力沙汰だ!

 年配者がたづなを握っとかんと若者は危険じゃ!!」


「今のほうが危険だ! なにも知らない若者を高齢者のおもちゃにされているんだから!」


「おもちゃではない! 若者の有効活用じゃ!」


「その発想がまちがっとるんじゃよ!!」


たくさんの年齢を重ねてしまったのがあだとなり、

「これだけ年月を重ねた自分がまちがうはずない」とお互いに引くに引けなくなった。


そうなると平日から時間をもてあましているのもあいまって、

若者を動員し、お互いの意見の正しさを競う大戦争となった。


「この戦争、勝ったほうの意見が正しいからな!」


「わしは平日はいつも将棋をしている! 負けるわけがない!!」


大きな内戦は来る日も来る日もつづけられ、動員される年齢はますます下がっていった。


「それじゃあみなさん、今日は1時間目から5時間目までは戦争です。

 おろかな考えを持っている敵をやっつけましょう」


「はーーい」


体育のプール授業くらいのノリで戦争が続けられていたが、

戦争の日が長引けば長引くほどに若者の数は減っていく。


気がつけばもう戦争に動員するだけの若者は死に絶えてしまい、

戦争を続けようにも続けられない状態になってしまった。


そうして、どちらかが言い出したか戦争終結への会議が開かれた。


「わかっていると思うが、すでにこの世界には若者はいない」


「ああ、わかっとる。休戦じゃろう」


「いいや、休戦ではなく終戦じゃ」


「なに、まだわしは負けとらんぞ! 動かす駒がいないだけじゃ!」


「それが問題なんじゃよ。若者は今やこの国に数えるほどしかおらん。

 こんな調子でつづけばどうなるかわからんのか」


「わ、わしら人間そのものが絶滅してしまうのか……?」


「そうじゃ、もうどっちが勝ったとか正しいとかの次元ではない。

 わしらや次の世代になっても世界があるためには、

 争っている場合ではないのじゃよ」


「そうじゃな……わしらは自分のことばかり考えとった。

 この先の時代を作るのは若者だというのに……」


「それじゃあ……!」


「ああ、若者のボケを治すための薬を使おう……。

 このままじゃ未来がくらいままじゃ……」


「これからは若者の時代じゃ」


「そうじゃな。わしらは見守るだけじゃ」


長きにわたって続いてきた代理戦争は幕を閉じた。

そして、会議に参加していた年配者のひとりがポツリと口を滑らした。


「若者の呪いを治す薬を作れるのなら、

 わしら高齢者が若返るような薬も作れそうじゃがのぅ」


両陣営のリーダーは目をギラつかせて固い握手をした。



「それじゃ! わしらが若返ってしまえば若者に好き勝手されずにすむぞ!」


「やっぱりわしらが引っ張ってやらんとな!!!」



こうして呪いは残ったまま若い高齢者ががんばる素敵な世界になった。

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