【116】平和だなあ


 ――埋まり人の集落を出発して二日。


 周囲の光景が、少し様変わりしてきた。

 長閑な田園風景だったのが、次第に荒野や深い谷、暗い森が目立つようになってきたのだ。

 魔族の支配領域っぽい感じだ。

 ただ、相変わらず良い天気なので、いまいち緊張感に欠ける。


 チート城君はどしーんどしーんと歩いている。今日も元気でよろしい。

 私は自室の窓からぼーっと外の景色を眺めていた。


 正直、暇です。


 でっかくて目立つチート城君だけど、魔族が襲撃してくる気配が一向にない。

 もしかしたら、聖なる力が城全体を覆って、魔物たちを寄せ付けないようにしているのかも。某国民的RPGの勇者呪文みたいに。


 ……というか。

 当初のパーさんの話だと、三日くらいで目的地に到着するって言ってなかったっけ?

 もしかして、この辺り一帯がすでに目的の場所? パーさんってこんな場所に暮らしてたの?


 うーん、なんか魔王のイメージが変わっちゃうなあ。

 なんかこう、平和じゃない?

 私としては願ったり叶ったりなんだけど。


 後ろを振り返る。

 ベッドの上ではヒビキとスカーレットちゃんが添い寝する形で、仲良く寝息を立てている。

 うーん、平和。


 私、何しにここまで来たんだっけ。

 アンコクリュウが何とかかんとか、誰か言ってたような。

 もしかして壮大な空耳? うん、そうかもしれない。

 そういうことにしたい。


 私は欠伸をひとつ。視線を地上の景色から、空の方へ向ける。


「これで、落ちなさぁーいっ!」


 どーん……。


「外したかアムル。なら俺が! ふんっ!」


 ぼぼーん……。


「お兄様。こうなったらアレです。昨日話した合体技!」

「うむ。そうだな我が義妹よ。さあ、いくぞ!」

『はああああーっ!!』


 どどーどぉーん……。


 ……。

 おわかりいただけたでしょうか?


 今、ディル君とアムルちゃんが空に向かって立派な魔法を放っています。

 まるで花火のごとく蒼穹に弾ける閃光は、すべて魔王パー……なんとかさんを撃ち落とすため。

 チート城君の中には断固として入れない――というディル君たちの強い決意のため、パーさんは私たちの後を勝手に付いてきている状態なのですが。


 いつの間にかあの人、飛行能力を手に入れていて。


 ディル君曰く、ハエのように城の周囲をぶーんぶーん飛び回っています。

 パーさん、意外にテクニカルで、ディル君たちの渾身の魔法攻撃をひたすらかわしている。時々直撃して墜落するけど、あの人のことだから無限コンテニューである。

 あ、また復活した。


「ふはははっ。甘いぞ諸君! 我は魔王! これしきのことでは、墜ちぬ! さあ、もう一度だ!」

「ふざけるなっ、このハエ魔王め!」


 ばささぁ……。

 どぉーん……。


 ……。

 平和だなあ。


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