【115】刺激してはいけません


「魔王! パーレグズィギスゥトゥ!」

「魔王! パーレグズィギスゥトゥ!」

「魔王! パーレグズィギスゥトゥ!」


 突然のシュプレヒコール。

 いつの間にか集まってきていた埋まり人さんたちが、(もちろん地面に埋まったまま)魔王の名前を連呼し始めたのだ。


 地面から湧き上がってくる声。

 正直、圧倒される。


「馬鹿な……」


 ディル君の頬に汗が流れる。


「あやつの名前を、一度も噛むことなくこれほど連呼できるとは!」

「ええ、お兄様。この方々、やはり侮れません」


 真剣な表情でうなずくアムルちゃん。

 いやまあ、同意です。

 凄いよ、ここの人たち。えっと、パーレぎゅ――痛たた、舌噛んだ。


 うねりのような声に後押しされて、地面に埋まったままのパーさんが反応した。

 ゆっくりと、非常にもったいぶった動きで右腕を挙げる。

 そして再び、力強くサムズアップした。

 私はちょっと笑ってしまった。余裕だねパーさん。


 それはともかく。

 どうしようこの状況。


「お姉様」


 こそりとアムルちゃんがささやく。


「今の状態が続けばよろしくありません。お城に戻りましょう。このまま何事もなかったかのように」


 最後の一言が余計だと思ったが、私も賛成。


 シュプレヒコールを続ける埋まり人さん、それに雄々しく右手だけで応えるパーさん。

 彼らの横を、私たちはコソコソと移動した。


「魔王! パーレグズィギスゥトゥ!」

「魔王! パーレズィグギトゥスゥ!」

「魔王! パーグレズィギスゥトゥ!」

「……なんか微妙に名前が変わってきてない?」

「刺激してはいけません姉様」


 完全に地雷扱いにするアムルちゃんに手を引かれ、私はお城の入口までたどり着く。

 そのとき、パーさんが高らかな笑い声を上げて立ち上がった。


「皆! ありがとう! 皆の声のおかげで我はこうして復活することができた!」

「わああああああああっ!!」

「……楽しそうだなあ」


 私はつぶやく。きっと仲がよかったんだろうね、ここの人と。

 パーさん、そのまま皆と一緒に暮らした方が幸せだと思うよ。


 ――と、生温かい目で見たのがいけなかったのだろう。

 パーさんと、目が合ってしまった。


「聖女よ!!」

「え!? ハイ!?」

「では共に参ろうぞ! 暗黒龍の元へ! 我が心の楔を解き放つのだ!!」


 そうだっけ?

 

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