【111】由々しき事態


 ――私たちが訪れたこの集落には、特に名前はないらしい。

 その代わり、道沿いで出会った――いや遭遇した――いやエンカウントした――老人のような人々がそこかしこに潜んでいた。


 遠目で見ただけではわからなかったのだ。

 近くで見ても意味不明だが。


 ちなみになんで埋まっているのか、ついぞわからなかった。私にはまだ早過ぎた世界なのかもしれない。


「帰っていい?」

「駄目です」


 ディル君とアムルちゃんに秒で却下され、私はちょっと泣いた。


 だって怖いんだもの。パッと見、長閑で美しい田舎のそこかしこで『おわかりいただけただろうか?』な光景を見せつけられるんだよ?

 ここにパーさんが潜んでいるなんて考えられ――。


 うーん。う、ううーん。

 なくもない、か?


 むしろここがパーさんの故郷だと言われても妙に納得できる自信が湧いてきた。

 どうなってんの魔族。

 そっち方向で人間を恐怖に陥れたいの? 大成功だよ。


 どんよりとした私とは対照的に、ディル君のアムルちゃんは緊張感を漲らせていた。

 なんとしても目的を達成する――そんな強い決意が見て取れる。

 だったらふたりだけで、と思わなくもないけど、そうしたら今度はパーさんが私のところに突撃してきそうだ。


 パーさんに迷惑行為をやめてもらうためにも、彼のことをもう少し知らなければならない。

 ああ……怖いなあ。


「……!」

「おお怖い」

「……! ……!」

「ああ、怖い人間たち」


 私はディル君たちの後ろを付いて歩きながら、別の意味でげんなりしていた。


「ねえ。なんで出会う人出会う人を睨みつけてんの。ふたりとも」

「当然でしょう主様。こんなの普通ではない」


 いやまあ……そうですけど。

 そっか。これは私の方が緊張感が足りなかったパターンか。

 そうだよね。魔族領域。人間とは明らかに違う習慣。緊張しない方がおかしい。


「ごめん。ちょっとびっくりしすぎて、ぼんやりしていたかも」

「そうではありません!」


 強い口調。そこには怖れすら感じる。

 気付けば、アムルちゃんはいつの間にか天使モードになっている。いつでも戦えるという意思表示。

 にわかに私は不安になってきた。


「そんなに……まずい状況なの?」

「ええ。ええ、そうです。非常にまずいです。これは!」

「お兄様のおっしゃるとおりですわ……!」


 アムルちゃんも同意する。

 私はごくりと唾を飲み込んだ。

 ディル君が戦慄で震えている。その手にはガスマスクが――って、ん?


「こんな……こんなキャラが濃い連中に囲まれては、俺たちの存在意義が薄れてしまう……! ガスマスク程度では歯が立たない……!」

「わたくしも、この装備だけではインパクトに欠けます……由々しき事態ですわお兄様!」

「じゃあ君たちも埋まる?」


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