【109】お似合いだと思って


「ねえディル君」


 チート城君がゆっくりと足をたたむ中、私はたずねた。


「本当にここが魔族の支配領域なの? なんか、思ってたのと違うんだけど」


 窓から見えた村の景色。

 それはまるで、絵画のように綺麗だった。

 水平線が見えそうなほど広く、澄み切った湖。

 まばらな民家。

 ささやかな畑。

 ご褒美のような静けさ。


「私のイメージではもっとこう……暗くてジメジメした世界を想像してた」

「そうですね。主様のイメージで、おおむね間違いないと思いますよ。俺も魔族のことをすべて知っているわけではないですが、『闇』と相性が良いのは確かです」

「……ぜんぜん違うよね? ここ」

「ま、何事も例外があるということですね」


 あっさりと納得するディル君。いいのかなそれで。

 いやまあ、平和的、友好的であることに越したことはないんだけど。


 玄関ホールに向かう私を、アムルちゃんが追い抜いた。


「お姉様、早く早く!」

「ちょおっと待ったアムルちゃん!」


 呼び止める。赤い髪のツインテールが綺麗な弧を描いた。

 可愛らしく小首を傾げる彼女に、私は咳払いした。


「アムルちゃん、その格好は何?」

「これですか?」


 くるん、とその場で一回転。さすが、踊りをメインに戦う少女。体幹がしっかりとした美しい舞だ。


 水着です。

 ピンクのひらひらビキニなのです。

 どっから引っ張り出してきたのか、手にはビーチボール。


 アムルちゃんは天使の微笑みを浮かべた。


「お姉様もご一緒に泳ぎましょう!」

「いやいやいや。遊びに来たんじゃないよ? 確かに湖は綺麗で気持ち良さそうだけどさ」

「そうなんです! ディルお兄様のお話では、それはそれは冷たくて、浸かればあっという間に気持ちよくなれるとか!」

「ディル君ちょっとこっち来なさい」


 弟わんこを呼んでお座りさせる。


 ――『気持ちよくなる』の意味が違うよね?

 ――面白いでしょう?


 アイコンタクトで意思疎通。もはやツッコミに台詞すら不要とは恐れ入った。


 いつの間にか私用の水着まで両手に抱えていたアムルちゃんを着替えに戻らせる。

 後に残ったのは正座したままの弟わんこと、カラーズちゃんたち。

 メイド服姿の彼女らの手には、色とりどりの水着。わお。


「申し訳ありません、聖女様……お似合いだと思って、つい」

「あー……」


 額を押さえる。仕方なく言った。


「落ち着いたら、みんなで行こうか。泳ぎに」


 ぱぁっと表情が明るくなるカラーズちゃんたち。


 ま、息抜きは必要よね。

 息抜きで済めばね。


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