【108】二回言うな!
とりあえずポイ捨てするのも気が引けたので、残骸サイン色紙は私の部屋の片隅に飾ることにした。
ディル君とアムルちゃんは強硬に反対したけど……。
「地獄の業火に焼かれて魂ごと灰と化せ!!」
「やめなさい部屋が焦げる」
私はポーズを取って魔力を高めるディル君とアムルちゃんを部屋の外に追い出した。
まったく、何なの。どこぞの秘奥義みたいな叫びは。私は権利者から怒られたくないよ。
ドンドンと扉をたたきながら、アムルちゃんが叫ぶ。
「色紙からパーが出てきたらどうするんですかお姉様!」
ちょっと心が揺れた。
あやつならやりかねぬ。
……いや、まさかね。
私はベッドの上でスカーレットちゃんとたわむれていたヒビキを抱っこした。
「ヒビキー。あの紙から『ぶわっ』したら『ばつ』しようね」
「だー!」
嬉しそうな返事だった。
スカーレットちゃんもニコニコと笑っている。
きっと母と子、姉と弟の仲睦まじい光景に『微笑まー』状態なのだろう。
私のゲスっぷりが際立つ。ごめん皆。
――チート城君は、順調に進み続けた。
パーさんが示した道は、確かにとても進みやすい。平地で、長閑で、美しい。映画に出てくる農道みたいだ。
もちろん、メインは人が歩いている。
もう一度言います。
道には。
人が。
歩いている。
「あ、お姉様! 見て下さい。下々の者が手を振っていますよ」
「言い方」
「おーい、やっほー!」
たぶんアムルちゃんに悪気はない。
四本足で闊歩する巨大な城に、目を丸くするどころかその場でひっくり返る人続出な中、にこやかに手を振れる精神がすでにビッグ。
私は壁に隠れてやり過ごすしかなかった。
「だんだん、魔族が増えてきましたね」
同じく外の様子を見ていたディル君が言った。
「人間との交易が維持されているということは、この辺りは比較的平和共存できている地域なのでしょう」
「つまり私たちの方が異物……!」
「何を今更」
「良い笑顔で言うな」
「何を今更」
「二回言うな!」
――チート城君は、とある湖畔の村に差しかかっていた。
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