【105】今の聞かれた?


「主様、ひとつ提案があります」

「……なにかな?」


 ディル君からの提案、身構えないわけにはいかない。

 テーブルを囲ったディル君とアムルちゃんは、真剣な表情を崩さなかった。


「この城を移動させ、別の国に行きたいと考えているんです」

「えっ!? いま、なんて?」


 私は素で驚いてしまった。

 私をオモチャにする提案でないことも驚きだが、その内容もあまりに予想外で、思わず聞き返してしまう。


 ディル君は辛抱強く繰り返した。


「この城を移動させ、別の国へ行くのです」

「えーと……なぜ?」

「パーへの対処法を見つけ出すためですよ」


 ますますわからない。

 アムルちゃんが腕組みをした。


「闘技大会が終わってから、わたくし、お兄様と一緒に色々な書物を調べました。いかに最弱、最低、お姉様と同じ空気を吸わせるのも汚らわしい廃棄物とはいえ、あの者の力、能力は侮れません。しかし……魔王パーなる人物はどの歴史書にも載っていなかったのです」

「そうだよね。パーさんは確かパー……なんとかって名前があったものね」


 パーさんと略したのは私ですごめん。だって覚えられない。

 アムルちゃんが握り拳を作る。


「こうなれば、かの者が生まれたであろう本拠地に乗り込み、パーの弱点を直接探るしかないと考えたのです」

「……ん?」

「主様。奴の名が広まっていないということは、奴を知る存在はごくわずかのはずです。聞き取りで情報を得るのは望み薄。ならば、奴が生まれた環境を調べ、そこから弱点を割り出すのです」

「えーと、つまり。お城ごと移動するっていうのは……」

「はい。魔族の支配領域に乗り込みます」


 いや、いや。

 なにをおっしゃっているのか。

 魔族の支配領域ってなに? 今より数段危険な場所に自分たちから出向くってこと?


「主様。ついでに手頃な領域を平定して、主様の国を作ってしまいましょう」

「いやいやいや! それ侵略だから!」


 仮にも聖女が何言ってんのって話だよ。

 さらにツッコミを続けようとしたとき、ぞわりと悪寒が走る。


「ふはははっ! 面白いことを相談しているな、諸君!」


 出た、パーなんとかさん! 今回はテーブルの下から出現。好きなのそこ?


 っていうか、今の聞かれた? まずいんじゃない?

 いくらパーさんでも、自分の弱点を探られて、あまつさえ滅ぼそうとしている話に黙っていられるはずは――。


「直線距離では北を突っ切るのが最短だが、旅の快適を望むなら北東から迂回するのがオススメだ! 諸君ならだいたい三日でたどり着けるだろう! うむ、素晴らしい速度だ!」


 ――アナタ本当に自分で何を言ってるかわかってる?


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