【104】クラスチェンジ


 涙は熱めの湯で洗い流す。

 空は抜けるような青空なので、私はヤケクソで即席露店風呂を楽しんだ。


 アムルちゃんはすっかりボディガード役が板に付き、私のぴったり横に付きながら油断なく辺りを見回している。

 めっちゃ近いけど。ほぼ抱きつかれているのですが。


 ……少し前に「近くない?」と尋ねたら、「至高の役得ですが?」と首を傾げられた。

 それがなにか?――みたいに言わないで欲しいな。


「お姉様、ご安心下さい。今日のところは、邪悪パーは退散したようです。それと柔らかいですお姉様」

「そ、そう」

「お姉様もここのところお忙しかった身。今日くらいはゆっくりお休みください。あと柔らかいですねお姉様」

「あ、ありがとう」


 これは気にしたら負けという奴だろうか……?

 私、まだそこまで精神的にレベル高くないんですが。


 ふーっ……と長く息を吐き、湯船の端に背中を預ける。目を閉じる。こうすると、少しは楽になる……。


「すりすり……」

「……」


 アムルちゃん。猫みたいに頭をこすりつけるのは止めてね。可愛いけど。


 ――しばらくして、私は湯船から出た。

 カラーズちゃんたちが渡してくれたバスタオルで身体を拭きながら、右手に聖杖を召喚。


「そい」


 掛け声ひとつに杖を一振り。

 アムルちゃんの一撃で大穴が開いた天井は、瞬く間に元の姿に戻った。


 だいぶ魔力の扱いにも慣れてきた。

 周りの人たちも私の魔法に慣れてきた。


 知りたいな。

『慣れって怖ろしい』と考えなくて済むメンタルの持ち方。

 割と切実に、急募。


 ――それから部屋着に着替え終わった私たちは、ヒビキの眠る寝室でテーブルを囲った。


「どうぞ、聖女様」

「ありがとう」


 カラーズちゃん、すっかりメイド服姿が似合うようになった。淹れてくれるお茶もすごく美味しいし。

 ああ、永遠にまったりしていたい……。


「それではアムルよ。また奴が出たということだな」

「はいお兄様。わたくしたちが結界を強化したにもかかわらず、パーはまるでアメーバのごとく隙間なき隙間を通って現れます。まさに単細胞の極みです」

「由々しき事態だな。これは、城の地下からさらに強力な呪物を発掘する必要があるかもしれん」

「魔力の供給ならお任せ下さいませ。わたくし、お姉様のためならこの世に血の雨を降らせて見せますわ」

「うむ。よい覚悟だ我が妹分よ」


 お茶がまずくなるのでやめてもらえないだろうか?


「はあ……」


 私はため息をついた。

 まさか、魔王パーさんがストーカーパーさんにクラスチェンジするとは……。

 もうちょっと真面目に人生考えた方がいいと思うんだけどな……。


 っていうか……魔王ってなんだっけ?


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