【101】おわかりいただけただろうか?


 ――闘技大会が終わった。


 その夜、レギエーラでは盛大な宴が開かれた。

 皆が互いの健闘をたたえ合い、レギエーラの将来に乾杯する。

 それ自体はとても素敵なことだけど、振る舞われているのが私名義の酒ってのが何ともこう……何ともである。


「はぁ……」

「どうしたんですか主様。そんな深いため息をついて」


 隣に座るディル君がきょとんとして尋ねてくる。


 ――ここはアムルちゃんのご両親が管理する大きな教会のテラス。

 聖女である私には、この場所が相応しい――と、アムルちゃんたちに力説され、このテラスで祝いの席を囲むことになったのだ。

 テラスは少し高い位置にあるので、街がよく見える。祭りの灯りに染まったレギエーラは、とても幻想的だ。


 あんなことがなければ、私も楽しめただろうに……。


「もしかしてお姉様……」


 アムルちゃんが心配そうに言う。


「すべての種目で優勝者を叩き伏せ、そのお力を誇示できなかったことを悔いておられるのでは……?」

「一緒にしないでください」


 アムルちゃんもそこそこ付き合いが長くなったのだから、私というパーソナリティをもうちょっとよく理解して欲しいところ。

 なんでそんな心配げな表情で人を戦闘狂みたいに言えるのか。


 私のツッコミに逆に安心したのか、アムルちゃんは「良かったいつものお姉様ですわ」と言って料理を口にした。

 それにしてもデカい肉を一口でいくね。成長期だもんね。お腹空くよね。心底羨ましいですそのメンタル。


「はぁ…………」

「あの、聖女様? 差し出がましいことを申し上げて恐縮ですが」


 ヒビキの世話や私たちの給仕に精を出していたカラーズちゃんたち。

 その中のひとり、スカーレットちゃんが遠慮がちに声をかけてきた。


「もしや、あの魔王のことを気にかけておられるのでは……?」

「スカーレットちゃん」

「は、はい?」

「ぎゅーってしていい?」


 ええっ!? と驚く純粋無垢なスカーレットちゃん。

 なんだとっ!? と言いつつガタガタ席を立つディル君、アムルちゃん、ご両親たち――ええい、そなたらは黙るが良い。


「知らなかったとはいえ、私のせいでパーさんが消えちゃったのは事実だからね。やっぱり、ね」

「聖女様……」


 しばらく、沈黙が下りる。


「気にされることはないですよ、主様」


 珍しく真面目な口調でディル君が言う。


「奴は魔王を名乗った。聖女の力を持つ主様から見れば、やはり同じ天を戴くわけにはいかない相手。それに、いかに弱くとも奴の所業は人々の平穏を脅かすものだった。仕方なかったのです」

「ディルお兄様と同感ですわ。お姉様は戦士たちの、ひいてはレギエーラの人々を護ったのです。今は魔王ではなく、人々の喜びに目を向けるべきですわ」


 ……そうなのかな。


 私は背もたれに身体を預けた。見上げる。

 教会の美しいシルエットが目に入る。

 自信満々のサムズアップが見える。


「………………ン?」


 テラスの上。

 教会の屋根。

 風にたなびく黒い服。

 ポーズを取る誰か。


 ――目を擦る。


 屋根の上には、誰もいなかった。


「お姉様?」

「おわかりいただけただろうか?」

「え、なにをです?」


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