【102】夜空に花火


 いやいや。

 ちょっと待って。

 さっき、居たよね? あの人が。

 何か五体満足で自信満々にポーズを取っていたような気がするんだけど。


 スカーレットちゃんがお肉の乗ったお皿を新しく持ってくる。


「聖女様、どうぞ」

「ごめんね。『おかわりいただけるだろうか』って意味じゃないの」

「すっ、すみません!」


 慌てて謝るスカーレットちゃん。

 いや、いいんだよ。むしろ癒されるわ。

 ぜひ、おわかりいただけなかったままでいてほしい。


 ――とにかく。


 アレは間違いなく魔王パーさんだった。

 聖杖の力を受けて無事だったんだ。

 なんていうか、本当に凄いね。


 まあ、ちょっとだけ肩の荷が下りたというか。

 これを機に、大人しくしてくれればいいんだけど……どう考えても、私の周りはパーさんに否定的だし。このままじゃお互いにいいことはない――。


「ふははははっ。我、復活!」

「ッ!? 貴様、主様の足下から現れるとは、何て不敬な!!」

「お兄様! ここはわたくしたちで対処しましょう。カラーズの皆様、今のうちにお姉様たちを安全な場所へ! それと、お父様とお母様にもこのことを!」

「ふははははっ! 再会早々不審者扱いだな諸君! その判断力の早さは驚嘆に値する。しかしっ! この魔王パーレグズィギスゥトゥ、聖女と添い遂げるためには手段を選ばん!」

「黙れ、邪悪な者め!」


 ぎゃいぎゃいと騒ぎ始める面々。


 私は席に座ったまま、プルプルと震えていた。

 カラーズちゃんたちが心配そうに声をかけてくる。


「聖女様、お気を確かに」

「大丈夫。ちょっと待っててね」


 やんわりとカラーズちゃんたちを下がらせる。

 それから、手を掲げた。

 現れる聖杖。

 私の視線に気付いたパーさんが喜色を浮かべた。


「おお、我が聖女よ。そなたからも言ってくれぬか? 我は決してやましいことはしていない。これは純粋な――」

「……テーブルの下、私の足下から出てきたよね?」

「うむ! 存外に居心地が良かった」


 この人の思考はどうなっているのか、本気で知りたくなった。


 にっこりと笑う。

 パーさんがにかっと笑みを返す。


「退場」


 聖杖の一振りで、レギエーラの夜空に花火が弾けた。

 宴はすごく盛り上がったという。




◆◇◆


第102話までお読みいただきありがとうございました。

次話から新しい旅へ。

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