【100】そこまでっ!!


 ――その後、行われた集団戦決勝。

 これも、まあその。ひどいものでした。

 人類はここまで連係を重ねることが出来るのかと、新しい発見です。

 ……そんな風に考えていないと、とても見てられない。


「我は魔王パーレグズィギスゥトゥなりッ!! 人間どもよ! そなたらがいくら束になろうと我の崇高な目的を邪魔することはぐあああああっ!!」

「聖女様を護るのは俺たちだ! 滅びよ魔王!」

「ふははぐふっ! やるなぐはっ! それでこそむうっ! 愛の障害ごほっ! 聖女カナデこそ我が伴侶どわっがはっ、おい少しは喋らせのおおおおっ!」


 とても……見ていられない。

 パーさん。弱い。弱いです。とてもとても弱い。

 しかしメンタルとタフネスさは本物。というか、アナタ不死身ですか? もしかして。


 ……はあ。もう。


「主様?」


 立ち上がった私を、ディル君が怪訝そうに見る。

 私は大きく息を吸った。


 たぶん、カナディア様ならこうすると思う。きっと。


「そこまでっ!!」


 お腹の底から声を絞り出す。

 戦闘がピタリと止む。

 皆の視線が――観客席を含めて全員が私を見る。

 私は腹を決めて、告げる。


「もう十分、戦いました。これ以上は無意味です」

「主様、何を――」


 怪訝な声を無視して、聖杖を掲げる。

 全身の魔力を杖に集中。ひとりひとりの顔を見渡す。


「全体回復魔法――」


 聖杖を、一振り。

 そこから溢れた膨大な光が、闘技場全体を包み込んだ。

 戦い傷付いた者たちが癒されていく。

 殺気だった空気が和らいでいく。


 このときの私は。

 自分の背中に、カナディア様が寄り添ってくれていることを確かに感じた。


 光が収まったとき、戦士たちの傷は元より、荒れ果てた闘技場もすっかり元通りになっていた。

 効果を確認した私は、軽く息を吐く。

 審判席にいるアムルちゃんのお父様に声をかける。


「これにて大会は終了。いいですね?」


 お父様は瞑目した。


「それが聖女様のご意向であれば」


 直後。

 舞台にいた集団戦優勝者の人たちが、武器を置いてひざまずいた。どうやら私に対して、最敬礼を送ってくれているようだ。

 それだけじゃなかった。観客席にいる人たちも胸に手を置き、私に向けて祈りを捧げるような姿勢を取っている。


 私は(表向き)その気持ちを静かに受け取った。

 聖杖を抱きしめ、強く思う。

 ――もう帰りたい。


「お姉様。素晴らしいですわ。わたくし、改めてお姉様に付いていくと誓います」

「アムルちゃん」

「ご覧下さい。邪悪なパーはこの世から消滅しました。お姉様のお力で、全ての平穏が取り戻されたのです」

「…………ン?」

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