【93】神の一撃
土煙が舞う。
カラーズちゃんたちに守られながら、ヒビキをあやす私。
さっきから冷や汗が流れて止まらない。
できれば闘技場の方を見たくない……。
「聖女様」
カラーズちゃんが揃って声を挙げる。おそるおそる、振り返る。
土煙が晴れた先には、まさに死屍累々とした光景が広がっていた。
あれだけいた参加者たちの誰一人として、立っている者はいない。
泣きたい。
本当に泣きたい。
でも、カナディア様の身体を受け継いだ私が、自分のしでかしたことで逃げるわけにはいかないよね……。
落ち着いたヒビキをスカーレットちゃんに任せ、私は聖杖を手に参加者たちの屍に近づいた。
全体攻撃が出来るのなら、全体回復もできるはず――。
そう思って魔力を溜めていく。
「……ん?」
できるだけ見まいとしていた参加者の表情。
一番手前で大の字になっている男の人は――笑っていた。とてもいい笑顔です。
よく見れば、男の人の身体には傷ひとつついていない。
息もある。何なら「うへへ……」という声も聞こえる。
「もしかして」
私は倒れた参加者たちを見回した。
「皆……単に気絶して倒れただけ?」
老若男女、職業も装備もバラバラな数十人の参加者たち。
全員、健在だった。無傷のまま戦闘不能にしたのだ。
――うおおおおおおっ!!
今度は観客席から万雷の拍手と歓声が響く。
『これは素晴らしい! 聖女カナデ様の一撃で、全員昏倒! しかし! 誰一人として負傷していません! これぞ聖女! 闘技場の開始に相応しい神の一撃だ!』
アムルちゃんのお父様が珍しく興奮の叫びを挙げる。
ビリビリと肌を震わせる歓声の中で、私は聖杖にすがりついた。
心の中で、親愛なるカナディア様にひたすら感謝の言葉を捧げていた。
ありがとうございます。やはり、あなたこそ本当の女神様です。少し天然だなんて思ってすみませんでした……!
これで。
これでどうにか、穏便に済ませられる。
肩の荷が下りたような心持ちで、私はカラーズちゃんの元へ歩いた。
そのとき。
「ふふ……ふふふ……!」
すんごく気味の悪い笑い声が、した。
観客席のディル君を睨む私。
「俺じゃないですよ主様」
「うそ、だろ」
「主様ひどい」
じゃあ、この笑い声はいったい……。
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