【92】追撃のデスノート


 迫り来る戦士たち。

 謎の気迫と情念が大津波となって押し寄せてくる。

 詩的に状況を説明するぐらいに他人事であればいいと、心から思う。


「聖女様!」


 そのとき、一緒に闘技場内に立つカラーズちゃんたちが、両手を広げて私の前に並んだ。


「聖女様に指一本触れさせるわけにはいきません」

「ここは私たちにお任せを」

「聖女様はどうか、お気持ちを静かにお待ちください」


 みんな……。

 とてもありがたいことを言ってくれたけれど……でも。

 皆には、戦う力はほとんどなかったはず。


「ご心配には及びません、聖女様。この戦いのルールでは、私たちも傷付けることはできないはず。ならば、盾として十分機能しますわ」


 カラーズちゃんたちの表情に、一切の迷いはない。

 それどころか、むしろ清々しさすら感じる。


 皆……そんなにも私のことを。

 私は聖杖をぎゅっと握りしめた。


 いくら傷を付けては駄目なルールであっても、この状況だ。不測の事態はじゅうぶんにあり得る。

 私が。

 私が腹を決めれば、彼女たちを守ることができる。


 落ち着け、私。

 何も倒す必要はないんだ。相手は魔物じゃない。人間なんだ。


 今までの経験を思い出そう。

 力を。私にできることを、最大限。


 魔力をコントロールするんだ――!!


『うおおおおおおっ、聖女様におさわりするのは俺だあああああっ!!』

「そんな不純な動機で来るんじゃなぁーいっ!!」


 聖杖一閃。

 私から溢れ出た魔力は、カナディア様由来の神力で美しく増幅、闘技場を光の饗宴地と変えた。


 ――要するに絨毯爆撃である。


『ぐああああああっ!!』

「いやああああっ!??」


 参加者と私の悲鳴に驚いたヒビキが激しくぐずる。


「びえええええええっ!!」

『ぐあああああああああああっ!!』


 ――追撃のデスノートである。

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