【91】華々しく告げてください
――それはまるで、天国のようでした。
いえ、より正確に申し上げれば。
自分の身体がすでにこの世にいないような非現実感でした。
「うおおおおおっ!!」
「聖女さまああああっ!!」
「この時をっ! この時を待っておりましたぞおおおおっ!!」
「お慕いしておりますっ!! お覚悟をおおおっ!!」
うん。
訂正。
ここは天国じゃない。
断じて天国ではない。
――私は今、カラーズを引き連れて闘技場内を歩いていた。
片方の腕にはヒビキ。もう片方の腕にはカナディア様から賜った白き聖杖。
円形の闘技場の端っこに、私たちは並び立つ。
闘技場の反対側。私たちの対面には。
完全武装した数十人の男女――この日のために研鑽を重ねてきた歴戦の猛者たちが、大きな声を挙げながら群がっていた。
開始のときを今か今かと待ちわびる彼らは、さしずめ、ごちそうを前にした猛犬のよう。
餌は私か。
私は微笑みを浮かべたまま、目尻から涙を流した。
……私は今日、死ぬかも知れない。
なんでしょう。
群がる人々は私を慕っているのか憎んでいるのかハァハァしてるのか、いったいどれ?
どういう感情なの皆さん。
『あー、あー』
私の後ろ、数段分高い場所に設けられた特別席に、アムルちゃんのお父様がいる。魔法を使った拡声器で、ルールを説明するようだ。
頭が真っ白で、もう何も入ってこないけど……。
『主催者より、特別戦でのルールをご説明します。制限時間は10分。最後まで立っていた者に、聖女カナデ様と改めて戦う権利が与えられます』
『うおおおおおおっ!!』
『ちなみに、制限時間中にカナデ様パーティをちょっとでも傷付けた者は失格とします』
『うおおおおおおっ!!』
……っておい! 何だその超えこひいきなルールは。
思わずしっかり聞いちゃったじゃないか。
え? ちょっと待って。つまり何? この人たち、10分間何してるの?
私たちを傷付けちゃいけないって。え? え?
それってつまり、普通に解釈すると、なに? え、もしかして『10分間私たちの攻撃に耐えたら合格』ってこと!!?
なぜだか観客席に座る弟わんこが声を張り上げる。
「主様ーっ。参加者を景気よく間引いてくださーい。でなければ全員とお一人で戦うことになりますよー!」
「これのどこが神聖なる儀式よっ!!」
「熱狂的なファンのみですから、多少吹っ飛ばされてもご褒美です! さあ、大会開始を華々しく告げてくださーい!」
「んなことできるかーっ!!」
『うおおおおおおっ!!』
「うおおおじゃなーいっ!!」
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