【78】ただし飲んだら


 ごほっ、ごほっとせきこむ私。

 カラーズちゃんたちが心配して背中をさすってくれる。ありがとう。でも十二人いっせいはやめて。ぞわぞわする。


 ディル君は笑っている。

 私は弟わんこをにらんだ。


「余分な20度はなんなのよ、いったい」

「最初のツッコミがそこなのは実に主様らしいです。完璧」

「やかましい。酒精ってアルコール度数のことよね。120度って適当言わないでよ」

「美味しかったですか」

「美味しかったけど!」


 ちくしょう悔しい。


 けど本当に美味しかったんだもん。なにこれ。日本にいたころなら通ってでも手に入れるよ私。

 ディル君の言ったことが半分本当だとして……アルコール度数が激高なのにすごく飲みやすい。

 それでいて喉にガツンとくる力強さもあるというか。


 ヤバいな。いくらでも飲めそう。たぶん肝臓死ぬまで気づかないぞ。

 見た目ほぼ苔に魔法の水に魔力だけで、こんな酒ができるなんて。

 私は遙か遠く、世界の違う杜氏の皆様に懺悔した。


「まあ、味は認めるよ。本当に美味しいお酒。お疲れ様、ディル君」

「もったいないお言葉」

「それはそうと、度数120はやっぱり盛りすぎでしょ。それありえない数字だからね」

「うーん。俺、仮にも神獣なので、鼻には自信があるんですけどねえ」


 本気で怪訝そうにしているディル君に、私は逆に不安になってきた。


 あの子がふざけたわけじゃなかったとしたら……ホントにこの20って、なに?

 いやまあ、アルコール度数100も大概ふざけてますけども。


「主様がおっしゃることはもっともだと思うんですが。そうですね、酒として限界突破していると考えてもらえれば」

「戦慄しか覚えないよ」

「まあまあ。美味しかったのならそれでいいじゃないですか――って」


 ディル君が目を丸くする。

 カラーズちゃんたちが『まあ……!』と口を揃える。

 私、自分の手を見る。

 我が身に起きた変化を知り、つぶやく。


「有名酒蔵の大吟醸を凌ぐほどの美味い酒――ただし飲んだら光る」

「素晴らしい効果です主様! やはり俺の鼻は間違っていなかった!!」

『全身が光り輝いて……なんて神々しいお姿! さすが聖女様!』

「誰か嘘だと言って!!!」 


 

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