【79】競合ゼロ


 嘘ではなかった。

 冗談でもなかった。


 光っておる。

 まるで後光を背負う神様のように。

 いや違うな……私の場合、光量がやたら強いだけの街路灯。

 光っておる……。私が、光っておる……。ぴかーっと。


「はは、あはは……」

「主様が壊れた」

「そう思うなら直して」

 それと。

「カラーズちゃん、お願いだから皆して祈らないで。私そういうのじゃない」


 ひざまずく十二人のメイドちゃんを、光輝く私は光を失った瞳でたしなめた。


 恥ずかしさとかワケわからなさが限界突破して、感情が変だ。

 もういっそこのまま光る像として生きてみる……?

 そうすればもうディル君やアムルちゃんたちに振り回されずに済む。


 ……悪くないなそれも。


「あ、戻った。よかったですね主様。……主様?」

「……水」

「どうぞご自分でご用意ください」

「なんでこういうときに冷たいかな!?」


 こういうときだからか!?

 納得だよちくしょう!!


 ――落ち着くまでしばらくかかった。


 改めて、試作品『銘酒 真・聖女カナデ』を満載した酒樽を見る。


「つまり、ディル君の言ってた度数120っていうのは、酒に込められた魔力で普通のお酒とは違う効果が付与されてたからってことなのね」

「ええ。間違いないでしょう」


 さすが主様とディル君が拍手する。カラーズちゃんたちも真似して拍手。

 拍手の意味がわからぬ。


「主様、飲んだら光る酒なんてオリジナリティ満載じゃないですか。競合ゼロですよ」

「競合してたら地獄絵図だよ」

『せ、聖女様。ぜひ、私たちにも一口……!』


 早まるなメイドたち。

 私のようになってはいけない。


 そして当然のように動く弟わんこ。

 尻尾をぱたぱたさせながらカラーズの前へ。


「さあ、どうぞ」

「ディィイイィルゥゥゥッ」


 杯を!

 配るな!

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