【77】度数


 ディル君が投入したのは目の粗い布袋。

 中には、浄化した毒沼から採取した光る苔みたいなのが入っている。

 そこからお酒の成分がしみ出すことで、水が酒に変わるという仕組みだ。


 自分で言うのもアレですが、マジで?

 今更だけどそれで合ってる?

 米作りといい、私、ことごとく本業の方々を愚弄していないだろうか。


 申し訳ありません。私は酒蔵に務めるすべての方々を尊敬しています。


「主様、どうやら上手く製造が始まったようですよ」


 ディル君が言うとおり、容器下の魔力の輝きが増していた。同時に、独特の匂いが室内に満ち始める。

 木製のパイプを通って、液体が別の容器に移っていく音も聞こえる。

 パイプの先は、これぞザ・酒樽って感じの樽に繋がっていた。


「すごく速いね。こんなにすぐできあがるものなんだ、お酒って」

「どうでしょうかね。まだまだ試運転かもしれません」


 ディル君が酒樽に耳を傾ける。

 そして、ちょいちょいとカラーズに手招きする。

 どうやら樽が満タンになるのを音で確認するつもりのようだ。

 そこはアナログなのね。


 十二人がいっせいに樽に引っ付くのは壮観だった。

 いつも思うがどうやってスペース確保してる。すごいよ。それもう才能でよくない?


 しばらくして、ディル君が魔力を放つ。木製パイプを通る液体の音が、少しずつ遠くなっていった。


「さあ主様。できましたよ。『銘酒 真・聖女カナデ』試作品の完成です」

「なにそのちょっとおバカなネーミング」

「アムルたちが『銘酒 聖女カナデ』と名付けるそうなので。あくまで本家はこっちです」


 どうでもいい。

 むしろ今すぐ改名して欲しい。


 これまた用意のいいことに、試飲用のコップも用意していた弟わんこ。

 樽に付いた蛇口をひねり、中身をコップに注ぐ。

 その様子をカラーズたちが固唾を呑んで見守っている。

 あまりに真剣な表情に、私はちょっと笑ってしまった。いつも一生懸命なのはあの子たちの大いなる長所だ。


 ふわん、と酒の香りが広がる。

 むむ。思ったより良い。芯の通った日本酒って感じだ。

 試作品の匂いを嗅いだディル君がひとつ、ふたつうなずき、そのまま私にコップを渡してきた。


「香り、色、魔力。どれも問題は感じません。最初の一口は、どうぞ主様から」

「ありがとう。……念のため確認だけど、嘘は言ってないよね?」

「それこそ主様の方がわかるでしょう」


 むむ……。

 確かにコップの中身は、ディル君の言うとおり。綺麗なものだ。感動すら覚える。

 私はごくりと喉を鳴らした。


「では。いただきます」


 コップを捧げ持ち、それから口を付ける。


「あ、ちなみに、これの酒精度数は推定120度です」


 やっぱり飲んだ後に言いやがった。

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