【76】余韻を返せ


『聖女様……』

「あ、いや。スカーレットちゃんを責めてるんじゃないよ」


 哀しそうに眉を下げたメイドさんに、慌ててフォローを入れる私。

 ディル君も見かねたのか、フォローを入れる。


「スカーレット、冗談だから。そう気負わなくていい」

『冗談……そうですか……そうですよね……私だけ喜んでしまい、浅ましい姿を……申し訳ありません、聖女様……』

「ディィイィイィルゥゥゥゥッ!!」

「待った主様これは俺悪くなくないです?」


 うるさいです。元はといえばあんたが焚き付けたせいでしょうが。


 スカーレットちゃんの頭をなでなで。

 落ち着いた頃合いを見て、ゆっくり話しかける。


「それじゃあ、やってみようか? いい?」

『は、はい。誠心誠意、務めさせていただきます!』


 うむ。健気で可愛らしい。

 つくづく私が聖女でいいのかと自問自答してしまう。


 葛藤を腹の底に収め、私は魔力をまとった。

 スカーレットちゃんの身体に、ゆっくりと自分の魔力を通していく。


『あ……っ』


 煩悩退散。


「落ち着いて。私の魔力、わかる? これと同じように、自分でもイメージしてみて」

『わかりました。ふ……んっ……、ああ、聖女様の……温かい……』


 煩悩退散。


 そしてやっぱり笑うか、弟わんこ。

 懲りてないだろあんた。


 ――少しずつだが、スカーレットちゃんの魔力を感じるようになった。

 私は自分の魔力の流れに沿わせるように、彼女の魔力を導く。

 ゆっくり、ゆっくりと、指先に魔力を集める。


「いいよ。さあ、手を掲げて」


 スカーレットちゃんの手に、私は自分の手を重ねる。

 イメージ、水の玉。

 目標、容器の中。

 スカーレットちゃんの魔力が具現化していくのを感じる。

 私は、そっと後押しした。


「――今!」

『はい! てええいっ!』


 可愛らしい気合いとともに、大きな水の塊が出現する。

 そのまま、容器の中にとぷんと収まった。


 くたり、と私に倒れかかるスカーレットちゃん。彼女を抱き留め、私はできるだけ優しい口調で言った。


「大丈夫? よく頑張ったね」

『聖女様ぁ……ありがとうございます。聖女様のおかげです』

「そんなことないよ。スカーレットちゃんが一生懸命だったからだよ」


 そして後ろを振り返る。

 そこには、同じく座り込んだカラーズちゃんたちがいた。

 スカーレットちゃんが感じた魔力の流れを、彼女たちも感じていたのだ。慣れない感覚に疲れてしまったのだろう。


「皆も。お疲れ様」


 十二人分の潤んだ瞳を見つめながら、私はうなずいた。

 これでいい。一歩ずつ進んでいこう。

 ここは現代日本じゃない。異世界スローライフ、このぐらいのテンポでいいじゃないか。


「よっ」


 どぼーん。


「主様ー、素材投入終わりました。さっさと次の段階に進みましょうよ」

「雑」


 余韻を返せ。

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