【75】二人の愛の証を
しかし、事ここに至って全部をひっくり返す度胸は私にはなく――。
「――と、いうことで、ガンバリマショウ」
『なるほど!』
適当な事情とおざなりな決意表明で、カラーズちゃんたちから尊敬の眼差しを向けられるという地獄を味わうことになった。
今すぐ部屋に戻って懺悔したい。
十二人ものカナディア様そっくりさんを前にしてるから余計にクる。
弟わんこ野郎は容器の隅っこでうずくまっている。背中と尻尾がぷるぷるしているから、よほど我慢できないのだろう。
隕石落としてやろうか。
――それから気を取り直し、私は水魔法のやり方をレクチャーした。
まあ、レクチャーと言っても、自分がどんな風に魔法を使っているかを拙い表現で伝えたり、実際に魔法を使って見せたりするだけだったが。
案の定、と言うべきか。
まだメイドとしてドジッ娘の域を出ない彼女らは、魔法の発動に非常に苦労した。
『本当に申し訳ありません、聖女様……。我らが役立たずなばかりに……』
「ううん。気にしないで。まだ練習始めたばっかりじゃない。少しずつでいいよ」
さめざめと涙を流すカラーズをひとりひとりなぐさめながら、私は頭を悩ませた。
そのとき、ようやく行動不能的爆笑から立ち直ったディル君がやってきた。
「ああ笑った」
「魔法の的にするぞ」
「すみません。ですが、主様はやはり主様ですね。素直に感心します」
私が怪訝そうに眉をひそめると、ディル君は珍しく優しげな微笑みを浮かべた。
「なんだかんだ言って、親身に他人と接する。決して見捨てようとしない。その心のありようは、まさに聖女にふさわしいと思いますよ。主様」
「ディル君……また私をハメようとしてる?」
「まさか」
ディル君は何を思ったか、カラーズの筆頭、赤リボンのスカーレットちゃんを呼んだ。
私と肩が触れ合うほど隣に立たせる。
「俺から提案です。主様と触れ合った状態で、一緒に魔法を行使してみてはいかがでしょう。魔力の運用は感覚的な部分も大きい。互いの魔力の流れを感じ合えるようにすれば、より感覚的に理解できるのでは?」
「なるほど。確かに」
「では……よっと」
ディル君の手で、スカーレットちゃんと正面から抱き合う姿勢にされる。
「え?」
『あ……』
目の前にスカーレットちゃんの動揺した赤面顔があった。
揺れる唇、潤んだ瞳に視線が釘付けになる。
互いの体温がダイレクトに伝わってきて――。
「さあお二人とも! もっとぎゅっと抱きついて! 二人の愛の証を放つのです!」
「おのれ謀ったな!!」
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