【56】わたくしが来ました!


「あーあー」


 ディル君の呆れた声が痛い。

 耳に、そして心に痛い。


「主様のことなので絶対に面白いことになると思っていたのですが……さすがにこれは予想の斜め上でしたね」

「ううっ……!」

「主様」

「な、なに?」

「さすがです」

「うわああああんっ!」


 ――ことの真相をご説明します。

 ゴブリン(大)を抑え込むため私が使った木の棒。あれは、しっかりとチート武器でした。


 一振りで隕石を落とす魔法の杖でございます。


『俺言いましたよね? そういう杖があるって』とディル君がおっしゃっていましたが、おっしゃるとおりでございました。

 それを偶然私が拾い、偶然正しいやり方で魔力を通し、そして当然のように正しく効果が発動したと。


 ヒビキをあやしていたら突然隕石が落ちてきて、城に穴が空いたときはさすがに驚いた――とはディル君の談。

 ヒビキは喜んでたらしいけど。うん、ごめんね。怪我がなくて本当によかった。


「ごめんなさいいい……」


 さめざめと泣く私に、ディル君はいつも通りの口調で言った。


「そんなに気にされることはないですよ。主様がご自分でおっしゃられたとおり、この城は主様のものなのですから。地下の不届き者を成敗したとして、何の非もありません。結果的にやり方が派手になっただけです」

「慰め、ありがとう……。でも、私もうかつだったし……」

「あのですね主様。そんな調子だと早晩倒れますよ? 心の方が限界迎えます」


 俺はそんなの望みません、とディル君は言う。

 私は深呼吸した。

 確かに、こんなことだと精神の方が病みそうだ。


「間違いのひとつやふたつ、人間ならば当たり前でしょう。いいじゃないですか。並の人間が一生かかっても扱えないような伝説の武器を、うっかりで発動させて城に穴を開けたくらい、酒場の笑い話程度ですよ」

「……」


 うなずいていいものか真剣に迷った。

 素面の人間は理解できないだろうし、泥酔してたらやっぱり理解できないと思う。


 ――それから私とディル君は、協力して穴を塞ぎ、部屋を整理し、扉を封印した。

 あっさり作業が終わる辺り、この城も私たちも立派なチートだ。


 一階の玄関ホールに戻る。

 先ほどまでにはなかった魔力の高まりを感じ取った。


「主様、どうやら転移用の魔法陣が起動し始めているみたいですね」

「まさか、アムルちゃんが!?」


 部屋に入る。

 中心に描かれた魔法陣がうっすらと明滅していた。どうやら、まだ完全起動には至らないようだ。

 このままだと魔法陣の機能が損なわれる――ということで、ディル君が急遽、フォローに入る。


 途端、まばゆい光が辺りを包み、次いで人の気配が現れた。

 花畑のような明るい声が響き渡る。


「お姉様! わたくしが来ました!」

「アムルちゃん」

「聖女様! 父も来ましたぞ!」

「ちち……え?」

「母も来たぞーッ!」

「……は!?」



◆◇◆


第56話までお読みいただきありがとうございました。

次話から『何か』を作り始めます。

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