【54】そういう流れです


 私は地下一階に再び足を踏み入れた。

 隣にディル君はいない。もちろんヒビキも。

 考えてみれば、自分一人で何かをするということはなかったように思う。この世界に転生してから。


 ひんやりと冷たい空気が流れる地下通路。

 無機質な石の床。壁。

 ひとりダンジョン攻略。


 ……いまだかつて、これほど釈然としない一人旅があるだろうか。

 いや、ないよ。


「なんでトラブル発生前提なのさ! まったく!」


 恐怖や感傷よりも不平不満の方が先に立つ。

 自然、足音も荒くなった。


 さいわい、新しい魔物の発生はなかったようで、地下通路は寂しさは感じるものの、いたって静かだ。

 冷たい空気と沈黙で頭が少し落ち着いてきた。


「えーと……確かオートマッピングは、と」


 私は魔力を練り、空中に地図を投影した。

 歩いた部分を自動でマッピングしてくれる便利な魔法だ。それ系のゲームでは必須である。

 私、マッピングって正直苦手だからホント助かる。作業として嫌いじゃないんだけど、頭がこんがらがるんだよね……。まいったまいった。


「……まいった」


 冷静になった頭からさらに血の気が引く。


 投影されたマップにはきちんとこれまでの踏破ルートが記録されている。


 それでも私は言う。


「ここ、どこ?」


 現在位置の表示がございませんが?


 辺りを見回す。

 ……オートマッピングにて表示された地図は、地下一階が入り組んだ通路になっていることを示していた。

 唐突に、ディル君の言葉を思い出す。


『主様も徐々に力を取り戻しつつあるので――』

「取り戻してない力ってソコ!? なんで肝心なところが抜け落ちてるかな私はーッ! ひどい縛りプレイだよ!」


 なによりもっと早く気づけや、私。


 深呼吸する。

 落ち着け。とりあえず、まだそんなに奥まで進んではいない。

 私の目的はダンジョン踏破じゃない。雑多な物置小屋となった部屋を整理し、魔物の手から護ることだ。


「よし……まずはこの部屋からだ」


 確か前に来たときは……来たときは……何があった?

 すでに嫌な予感を抱えながら小部屋を開ける。


 ――赤々と燃えたぎる炎と、ゴツくて格好いい大剣と、超絶ハイテンションにイメージチェンジしたゴブリン(大)がセットでそこに居た。


 ぐおおおおぉぉぉああああっ!!


「ですよねー!」


 そういう流れですよねー! ほんとにまったくもう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る