【53】主様のご活躍


「……なんて怖ろしいクッションなんだ。ごくり」

「その割にはしっかり持ち帰りましたね」

「だって便利だし」


 ――伝説の『人をダメにするクッション』(魔力付き)の力を身をもって味わった私たち。

 幸い、眠っていた時間は長くなかったようで助かった。


 だってまだ外明るいし。

 一時間も経ってないんじゃないの? って思うくらい明るいし。

 めっちゃ身体軽いし。


 ……え、大丈夫だよね?


 とにかく、こんなとんでもない力をもったクッション、放置して置くわけにはいきません。

 厳重に魔力で封をして、我らが聖なる空間(寝室)に持ち帰り、いつも横になっている台座にセットして、ヒビキに天使の寝顔を提供して貰うという断固たる処置をとったのです。


「なんて便利」

「よく眠ってますね。気持ちよさそうだ」


 ディル君が表情を緩ませる。

 私の表情? 聞くな。


 でも正直、このクッションを見つけられたのは幸運だった。

 いくらヒビキが強い力を持っているとしても、私たち大人と同じように行動させるのはしのびない。こんな小さな子には、お昼寝だって十分お仕事なのだ。

 ……お昼寝の時間に収まってるよね?


 ヒビキの前髪を優しく撫でてから、私は「よし」と気合いを入れた。


「もう一度地下に潜ろうかな。クッション騒ぎで、ろくに封印できていないし」

「わかりました。では――」

「あ、ディル君はこの部屋で待ってて」


 目を瞬かせる弟わんこに、私は力強く言い聞かせた。


「ヒビキをひとりにしておくわけにはいかないよ。たとえ危険がなくても、目が覚めたとき誰もいなかったら寂しいじゃない」

「しかし、地下には誰が」

「もちろん、私が行く」


 胸を張る。


「今まで驚かされてばっかりだったけど、自分の力とかその使い方とか、何となくわかってきたところだもの。前にも言ったでしょ。いつもいつもディル君に頼ってばかりじゃいられないよ。私も、できることをしなきゃ」

「主様……」

「だからひとりで大丈夫」


 ディル君は私の手を取り、目を輝かせて言った。


「主様のご活躍、心よりお祈り申し上げます」

「『こりゃ絶対面白いこと起こるぞ楽しみ』みたいなその表情よ」

 

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