【51】神から与えられてそのままです


 ヒビキが描く。

 ゴブリンが昇天する。

 私はその様子を戦々恐々と見守った。


 ものの数分で、あっけなくケリがついた。綺麗になった地下通路を、私は口元を引きつらせながら見る。


 なんてこと。

 こんな、こんな……。


「あーぅ?」

「可愛いねえヒビキーッ! えらいよーっ!」

「あーぅ!」


 一瞬で表情を崩してヒビキをなでくる私。

 褒めてどうするよ。

 いや、だがしかし。

 可愛いは、正義。正義……!


「……ヒビキ。今度から、お絵かきは私と一緒にやろうね」

「むぅん?」


 首を傾げる天使をよしよしして、私はそっと本を閉じた。ディル君にならって、魔力で本を縛る。


 力には責任が伴う。

 正義には力が伴う。

 可愛いは正義が伴う。うん。


「主様。わかりにくい現実逃避はいけません」

「ごめんなさい。あと心を読まないでくれるかな?」


 それから私たちは、地下通路を進んだ。

 地下一階といえど、さすがチート城。とんでもなく広い。ぶっちゃけ時空が歪んでいると思う。

 魔物は、やはりそこまで強くなかった。たぶん私ひとりでも何とかなると思う。

 ある程度お掃除が進んだところで、私は思った。


「しかし、予想よりこう……ごちゃっとしてたね」


 地下一階にはいくつもの小部屋があったが、多くは瓦礫の山となっていた。棚をひっくり返してそのまま放置、みたいな感じ。


「カナディア様のことだから、きっちりかっちり整理していると」

「まあ、そこまでの余裕はなかったのでしょう。地下の空間は、カナディア様が創ったものではないですし」

「あ、そうなんだ」

「ええ。神から与えられてそのままです」


 おい神。

 あんた私の女神様にこんなゴミ山を寄越しやがったのか。


「どうしますか主様。魔物の掃除はこれくらいで十分だと思うのですが、ついでに整理していきますか?」

「それはちょっと骨だねえ……」

「そうですね。歴代勇者の剣とか隕石を落とす杖とか黄金を生み出すツボとか、整理してたらキリがないですもんね」


 ……ん?

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