【49】ご機嫌な様子で


「ヒビキ」

「あぅ?」

「ヒビキー」

「あー!」

「ヒビキちゃーん」

「あーっ、きゃっきゃっ!」

「どうしようディル君この子めっっっっちゃカワ」


 ぱしん、と尻尾で叩かれた。


「三回目です主様」

「はいすみません。いや、でもだってさあ!」


 天使ヒビキをあやしながら、私は頬を膨らませる。

 だって可愛いじゃん。

 今だってホラ! 私の真似して頬ぷくーっって、ぷくーっ!


「どうしようディル君この子もがっ!?」


 何かよくわからない魔法を顔面にブチ当てられた。痛くはない。枕ぼふって投げられた感じ。

 こほん、と再度ディル君が咳払いする。


「それでは改めて、この子の名は『ヒビキ』。それでよろしいですね」

「うん。この子も喜んで暮れてるみたいだし」


 だーっ――と返事するヒビキ。

 ぐへへ。


「それでは続いて、地下の魔物をお掃除するとしましょう。――と言っても、来客に支障がない程度で良いのであれば、近場の有象無象をちょこっと間引くだけで事足りるでしょう」


 台詞が物騒である。


「わかった。でも、ヒビキはどうしよう。さすがに連れていくのは危ないよ」

「いえ、問題ないでしょう。見た目は人間の幼子ですが、仮にも我らの力を元に生まれた子です。そんじょそこらの魔物では傷一つ付かないでしょう。奴らはむしろ良いオモチャです」


 台詞が物騒である。

 ヒビキは嬉しそうだ。

 保護者として大変に複雑である。


 ――まあ、そんなこんなで。


 ディル君の先導で、チート城の地下へと足を踏み入れる。

 入り口の階段が玄関ホールに隣接していた。これは確かに、来客対応が不安になる。

 見た目はまさに、ザ・地下ダンジョン。石造りの通路だ。松明の代わりに光る石が壁にくっついている。


「主様。感じますか? この先にゴブリンタイプの魔物が数体います」

「あ、うん。すっごく弱い魔力だけど……わかるよ。動き、ゆっくりだね」

「はい。この城の聖なる力をもろに浴びているわけですから、表層ほど瀕死ですね。……あ、いました」

「私の踊りも有効なんだよね。あ、魔力をぶつけても良いのか」

「では、俺は奴らの囮となりましょう」

「いちおう、気をつけてね。ヒビキ? ヒビキは後ろで大人しくしてるのよ」


 う! という元気な返事が来た。

 さっきディル君が与えた色鉛筆を手に、ご機嫌な様子で宙に浮いている。

 良い子だねーすぐに終わるからねー。


「――って宙に浮いてる!?」


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