【48】名前を付けましょう


 呪いの本を開いて見せたまま、天使の男の子が曇りなきまなこで私を見上げている。

 私は本をそっ閉じした。


「とりあえずこの部屋は一件落着だね」

「無かったことにしてはダメですよ。主様」


 至極まっとうなことをディル君に言われてしまった。


 けど実際どうしよう。私の今の全力でも封じきれなかったこの本の力。

 それに、この子と本の繋がりも気になる。

 もし、無理に本を封印しようとしてこの天使までどうにかなってしまったら……。


「ああ……考えただけでも胸が痛い……」


 なでなでと天使を愛でながら唸る私。悩んでいることを察したのか、天使な男の子はその小さな手で私の頬を撫でてくれた。


「あー、うー?」

「……クッ!」


 ああもうチクショウ可愛いが過ぎるだろキュン死させる気か! よもや天使のデスノートに私の名前が知らぬ間に刻まれたのではあるまいな!? 悪くないと思ってしまうじゃないか!


「主様、ちょっと失礼」


 するとディル君がおもむろに本へ指をさしだした。

 くるり、と円を描くように動かすと、水色の光が本を縛る。

 ちょうど廃品回収で新聞紙をくるむときみたいな。……我ながら例えがひどい。


「こうすれば、少なくとも事故で本が開くことはなくなるでしょう」

「あ、そうか。なるほど。さすがディル君」

「いえいえ。さすがにそろそろ本筋に戻って頂きたいと思いまして」


 嫌味か。ごめんなさい。


 こほん、とディル君が咳払い。


「では主様。思いがけず増えた同居人。これからは『あの子』とか『天使』とか『めっちゃ可愛い』とかでは困りますので、名前を付けましょう」

「さりげなくディスられたような気がするけど、まあそうだね。うーん……どうしようか」


 大人しく抱っこされたままの男の子を見る。


「主様、主様。呪いの本から生まれたので666ろくろくろくはどうでしょう」

「どうでしょうじゃないわよ」


 なんで嬉しそうに獣の数字を勧めるのかこのわんこ。てかなんで知ってる不吉な数字。


 うーん……。


「……ヒビキ」


 ぱっと、頭に浮かんだことを口にする。


「私がカナデだから、あなたはヒビキ。どうかな?」


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