【29】おねえさま


 結局、アルマジロもどきは100メートルくらい先の丘をブチ抜いて木っ端微塵になった――らしい(ディル君談)。

 しかも吹っ飛ぶ過程でフジツボもどきも巻き込んで爆散させたため、沼はまっさらな状態になった。


 冒険者さんたちの開いた口が塞がってくれない。戻ってきて。


 とにかく魔物は駆逐された。後はアムルちゃんの出番だ。


「わあ……!」


 改めて祈りの踊りを間近で見た私は、感動して声を漏らした。

 しなやかな手足の動き、くるくると綺麗な軌跡を描く髪先と服の裾、真剣で、けどどこか物憂げな目。


 天使だ。天使がおる。


 彼女がステップを踏むたび、地面に光の図形が浮かび上がる。そこからこぼれた光によって、毒々しい色をしていた沼は徐々に浄化され、綺麗になっていった。


 なるほど、これが祈りの踊りの効果。すごいね。眼福だ。

 フィギュアの大会をスケートリンク真ん前で観た感じ。すごいすごい!


 私は胸に手を置いた。


「私もこの踊りを覚えれば……」


 少しは近づけるかもしれない。カナディア様のお身体を引き継ぐにふさわしい女性に。


「俺はパワフルな主様の方が見ていて楽しいです」

「黙らっしゃい」


 おすわりさせるぞ弟わんこめ。


 ――初仕事を終えて戻ってきたアムルちゃんに、私は惜しみない拍手を送る。


「お疲れ様、アムルちゃん! すごく良かった! 綺麗だったよ!」

「まあ、『お姉様』ったら」


 ん? おねえさま?

 まあいいか。


「ねえアムルちゃん。私にその踊り、改めて教えてくれないかな?」

「……!」


 目をまん丸にするアムルちゃん。感激している様子で、目が潤んでいる。

 期待、されてるのかな。

 うん。そうだよね。この期待を裏切らないように頑張りたいな。


 がっしと私の両手を握るアムルちゃん。私は穏やかに微笑んだ。


「お姉様、ようこそ沼へ!」

「言い方」


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